会社経営の父が急逝、継母とは不仲…「あなただけが頼り」と言っていた妻 今その言葉は嘘だったと感じる夫の苦悩

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「もう身寄りがありません」と涙ぐんだ妻

 1ヶ月ほどたったとき、健造さんが帰宅すると彼女は「ピアノバーで働くことになった」と告げた。紹介してくれる人があったのだという。彼女がピアノを専門にしていることを、彼はそのとき初めて知った。彼女は絵も描いていたし声楽もやっていたからだ。

「結局、父の望むままにいろいろなことに手をつけたら、どれも中途半端になってしまったのと彼女は寂しそうに笑っていました。本当にやりたいことはピアノなのかと聞いたら、『とりあえず自分の食べる分を自分で稼がないと。ピアノが手っ取り早いのよ』と。思わず、結婚しようと言いました。世間知らずで、どこか傷つきやすくて不安定な彼女を支えたかった」

 彼が育った家庭は「ごく普通のサラリーマン家庭」だった。1時間ほどで行ける実家に彼女を連れて行くと、父も母も姉も歓迎してくれた。由利子さんは、「私は父がいなくなって、もう身寄りがいません。健造さんだけが頼りなんです」と涙ぐんだ。

「結婚したからって家族だなんて思わなくもいい。頼れる場所ができたくらいに考えて、いつでも遊びに来ればいいし、何かあったら何でも言っていいんだよと父が言うと、彼女はぼろぼろと泣いていました。あとから聞いたら、父親はお金を出してくれたし、彼女に芸術的な教育は受けさせてくれたけれど、あんな優しい言葉はかけられたことがなかったって。どういう親子関係だったのかよくわかりませんが……」

 健造さんは、彼女が「楽しい」と思える時間を作りたかった。何でもないことで笑い合える家庭にしようと誓った。

後編【大腸がんの手術前日、妻から“重大な秘密”を告白された58歳夫 「僕は20年以上騙されていた。なぜ墓場まで持って行かないのか」】へつづく

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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