驚くほど知られていない、市販で買える花粉症薬の「最終兵器」

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 今年は全国各地でスギ花粉の飛散量が例年よりも多く観測され、続いてピークを迎えたヒノキ花粉も飛散が5月中旬ごろまで続く見込みだ。つらい思いをしている人は、シーズンがしばらく終わらない気配に鬱々(うつうつ)としているだろう。

 忙しくてなかなか時間がとれない人にとっては、市販の薬が心強い味方だ。しかし、「店頭に並んでいる花粉症の薬のうち、一番効果のあるものはどれか?」と聞かれたら、明確に答えられる人はほとんどいないのではないだろうか。

 店頭での市販薬販売経験が豊富な薬剤師の久里建人さんによると、市販の花粉症薬のうち、もっとも効果があるとされているのは飲み薬よりも「点鼻薬」なのだという。久里さんの著書『その病気、市販薬で治せます』から紹介しよう(一部、情報を更新しています)。

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「一番効く薬」が飲み薬とは限らない

 店頭で花粉症薬を売っていてふと感じるのは、「一番効く花粉症薬はどれ?」と質問するお客さんが意外に少ないということです。

 花粉症薬と言えば「アレグラFX」「アレジオン20」「クラリチンEX」などがテレビCMの定番で、ほとんどのお客さんは薬剤師に相談することもなく、これらを購入して帰っていきます。それはそうです、病院でも出ている薬ですから、効果は保証済みでしょう。

 しかし、効き目が高くて副作用の少ない市販薬がもし他にもあるとしたら、使ってみたいとは思いませんか? 「アレグラFX」などの飲み薬もよい薬ですが、これらを一番と呼ぶには役者不足。もっと効果が高く、コスパもいい──ドラッグストアの森には、そんな眠れる獅子も潜んでいます。

「ステロイド点鼻薬」というカテゴリーをご存知でしょうか。鼻の穴にシュッと吹きかける、スプレータイプのお薬です。炎症やアレルギー反応を抑えるステロイドと呼ばれる各成分が、くしゃみ、鼻水、鼻づまりを鎮めてくれます。

 ステロイド点鼻薬と飲み薬では、薬としての特徴がまったく異なります。もしもドラッグストアの薬剤師に「花粉症薬の中で、最も鼻への効果が期待できるものはどれですか?」と聞いたなら、多くの人がステロイド点鼻薬を挙げるでしょう(点鼻薬を嫌うお客さんもいるため、あえて名前を出さない薬剤師もいるかもしれませんが)。

ステロイド点鼻薬はコスパ、副作用の面でも◎

 ステロイド点鼻薬の良い点は、

(1)鼻症状に対しては飲み薬よりも効果が高い

「アレグラFX」や「アレジオン20」は「第二世代抗ヒスタミン薬」と総称されています。ステロイド点鼻薬と第二世代抗ヒスタミン薬ではどちらが効果が高いのかというと、世界中で様々な実験を繰り返してきた結果、今のところステロイド点鼻薬の方だと考えられています。実際、日本の病院でも、抗ヒスタミン薬だけでは鼻の辛い症状が治まらない患者さんにはステロイド点鼻薬が使われています。この優位性は、もちろん市販薬でも同じです。

(2)鼻症状に対しては「アレグラFX」よりも圧倒的にコスパが良い

 ステロイド点鼻薬は「アレグラFX」よりもずっとリーズナブルです。ステロイド点鼻薬は、商品によっては1本で1ヶ月~1ヶ月半ほど使えます。店頭価格で比較すると、私の家の近所の大手ドラッグストア3店では、【ベクロメタゾンプロピオン酸エステル】の点鼻薬が税込1700~2000円ほどで販売されています。一方の「アレグラFX」は1ヶ月分で3700円前後。ということは、ステロイド点鼻薬のほうが圧倒的に経済的です。同じ成分で安価なプライベートブランド品などでも、3000円ほどしますから、これらに対してもステロイド点鼻薬のほうが安く済む場合があるのです(なお、ネット通販ではさらに安くなります)。

(3)授乳婦でも使えるものがある

 市販の第二世代抗ヒスタミン薬である「アレグラFX」「アレジオン20」「クラリチンEX」「ストナリニZ」は、市販薬の説明書(添付文書)には授乳婦には使えないと記載されています(医療用は別と考えてください)。しかしステロイド点鼻薬のうちいくつかの成分は、授乳婦でも「薬剤師、登録販売者にご相談ください」と書かれています。点鼻成分が乳汁中へ移行する量は微量と考えられています。個々の健康状態により判断は異なりますが、薬剤師に相談いただければ「使える」と判断されるケースが多いと思います。

(4)副作用が出にくい

 飲み薬の花粉症薬は「眠気が出る」「喉が渇く」といった副作用を気にする人がいますが、ステロイド点鼻薬にはそうした心配はなく、薬が効くのはスプレーした部分だけなので全身への副作用を気にする必要は基本的にありません。そのため、日本のガイドラインでも安全性が高い薬として扱われています。ステロイドという言葉に怖いイメージを持つ方もいると思いますが、そうした方は店頭の薬剤師に副作用の実態について尋ねてみてください。

コツは「とりあえず1週間使い続ける」

 市販の点鼻薬に含まれるステロイド成分の種類は、私が知る限りで4つあります(カッコ内は代表的な市販品)。

(A)【プレドニゾロン】(「コールタイジン点鼻液a」)

(B)【ベクロメタゾンプロピオン酸エステル】(「ナザールαAR0.1%季節性アレルギー専用」など)

(C)【フルニソリド】(「ロートアルガードクリアノーズ季節性アレルギー専用」)

(D)【フルチカゾンプロピオン酸エステル】(「フルナーゼ点鼻薬季節性アレルギー専用」)

 このうち、(A)はステロイド以外に血管収縮剤(後述)と呼ばれる成分も入っているため、一般的にステロイド点鼻薬は(B)(C)(D)のことを指します。(C)は残念なことに、「ロートアルガードクリアノーズ季節性アレルギー専用」が2021年10月で販売終了。2023年3月現在、店頭で購入できるステロイド点鼻薬は(B)と(D)の2つです。

 効果については、(D)のほうが(B)よりも優れているとする研究報告はありますが、それほど大きな差はないと思います。また意外なことに、ステロイド点鼻薬を鼻にスプレーすると、目の症状にも効果が期待できることが知られています。日本のガイドラインでも、2016年時点では局所にのみ効くとしていましたが、2020年の改訂で目にも効果があることが明記されました。その効力は、抗ヒスタミン薬と同程度の可能性もありますが、研究データが少ないせいかステロイドの種類によってバラツキがあるとされています。

 最後に、ステロイド点鼻薬を使うにはコツがあります。それは「とりあえず数日間は続けること」です。使用後すぐに鼻水が止まったというお客さんもいますが、この薬の成分は、その効果を最大限に発揮するには何度か使い続ける必要があるのです。私は症状の悪化や副作用が現れない限り、1週間、1日数回を頑張って使ってみてくださいとお客さんに伝えています。

 ステロイド点鼻の市販薬はまだあまり知られていませんが、効果もコスパも高いので、いずれは広く使われると思っています。購入を検討する価値は十分にあるのです。

ただし「血管収縮剤入り」は長期連用NG

 ここで一つ、注意すべき成分があります。先ほどの分類(A)のところで軽く触れた「血管収縮剤」です。

 薬の中には、使い方を間違えると「治すつもりがむしろマイナス効果」になるものがあります。鼻炎用の点鼻薬のうち、「血管収縮剤」が入っているものもその一つです。

 ステロイド点鼻のうち(A)に分類した【プレドニゾロン】を使ったものと、非ステロイドの点鼻スプレーの多くは、血管を収縮させることで鼻づまりを抑える効果のある【ナファゾリン】などの成分を含んでおり、比較的安価で、即効性もあり、効き目も良いので、点鼻薬が手放せない人もいます。しかし、実はこの成分は、使い続けることで次第に効く時間が短くなり、使用頻度が増え、そして血管がむくみやすくなり、むしろ鼻づまりが悪化することが知られているのです。

「鼻アレルギー診療ガイドライン」(日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会)では、この成分は本来10日間ほどに限定して使うべきものであるにもかかわらず、市販薬で購入して継続使用しようとする患者がいる問題を指摘し、血管収縮剤による悪化の無限ループに陥った際の治療法にも言及しています。正しく使えば非常に使い勝手の良い薬です。そして、添付文書には「長期連用しないでください」とも書かれています。しかし、そうした警告を無視して使い続け、“血管収縮のトリコ”になってしまっている人がたくさんいるのです。

 花粉シーズンを通じてステロイド点鼻薬を使いたい方は、血管収縮剤が入っていない商品を選ぶようにしましょう。

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 花粉症の市販薬は、病院で処方される薬と同じ成分・用量のものが年々増えており、上手に使えば非常に便利で、十分な効果を得ることができる。しかし、処方薬と同等の薬を使いこなすには、それ相応の知識が必要だ。『その病気、市販薬で治せます』のなかで久里さんは、「薬はCMやなんとなくのイメージを頼りにせず、成分で選ぶこと」「添付文書のどこに注意して読むべきか」等、薬を自分で選ぶ際のコツと注意点を解説している。

デイリー新潮編集部

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