暴力団員が「阪神対ヤクルト戦を観戦しただけ」で逮捕のなぜ 20年前、甲子園の外野席を牛耳っていたのはヤクザだった
六甲おろしより先に胴上げさせない
阪神ファンが何よりも楽しみにしているのが、試合に勝った後の「六甲おろし」の合唱だ。だが、六甲おろしの前に原辰徳監督の胴上げを行うと聞いた中虎連合会の会長は激怒し、午後8時ごろ球場長と副球場長を球場内の詰め所に呼び出す。それから2時間にわたり、「認められん、なめとっら、殺すゾ!」「星野(仙一)監督(当時)に会わせろ」などと喚きながら、腹部にこぶしを突きつけたりしながら、球場長らを脅迫したのである。
「結局、胴上げは行われたものの、六甲おろしの後に回されました。球場長を脅迫した中虎連合会会長と幹部は山口組系暴力団の元組員と現役組員だった。翌03年10月、2人は暴行や脅迫容疑で兵庫県警に逮捕されました」(NPB関係者)
中虎連合会は傘下に26団体を持ち、約500人の会員を擁する巨大組織だった。揃いの黒い法被を着ていたことから「黒法被連合」と呼ばれていた彼らは、暴力で球場を支配するだけでなく私腹を肥やしていた。
「ホームレスを並ばせてチケットを買い占め、正規料金1700円に4000円を上乗せして転売。応援に使うジェット風船や六甲おろしの歌詞カードまで、球団の許可を得ずに勝手に販売していました。そうして得た利益や会費の一部を、暴力団に上納していたのです」(同)
「中虎連合会」潰しを陰で仕切っていた意外な人物
球場長への脅迫を皮切りに、中虎連合会は警察の徹底した摘発を受ける。03年11月、警視庁は、幹部ら3人を、東京ドーム職員に「服が汚れた」などと因縁をつけ阪神戦のチケットなどを要求した恐喝容疑で立件。翌04年2月には、東京ドームでの巨人戦でエール交換をした際に「地獄へ堕ちろ」などとヤジを飛ばした別の阪神応援団に、「俺に恥をかかせるつもりか。責任をとれ」などと言ってネクタイを引っ張るなどした暴行容疑でも幹部を再逮捕した。
さらに05年3月には、兵庫県警が、作詞・作曲者不詳の阪神応援歌の一部を自分たちが作詞・作曲したと偽って日本著作権協会(JASRAC)に登録したとして、著作権法違反(著作者名詐称)容疑で中虎連合会会長を再逮捕した。応援歌が収録されたCDは12万枚以上が販売され、携帯電話の着メロの著作権使用料も含めると、中虎連合会には約2000万円の収益があったとされる。収益の一部は暴力団に上納されていた。この事件では、音楽ソフト会社「コロムビアミュージックエンタテインメント」のチーフプロデューサーも逮捕され、中虎連合会の経理担当だった大阪地検の検察事務官が書類送検された。
実は、この壊滅作戦を陰から動かしていた意外な人物がいた。現在、読売新聞グループ本社代表取締役社長で巨人のオーナーを務める山口寿一氏である。当時、山口氏は読売新聞本社の法務部長だった。なぜ在京新聞社の法務部長が、在阪球団の私設応援団潰しを図ったのか。
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