「大谷翔平」投手で“オレ様”全開のナゼ ピッチクロックがあぶり出す「もう一つの顔」とは
捕手は黙って“壁”に徹する
開幕から正捕手だったローガン・オホッピーが故障離脱した後、代役としてマスクをかぶったチャド・ウォラクとのコンビになっても快投を演じた。4月21日のロイヤルズ戦は7回を無失点、11奪三振で勝ち投手に。
「大谷は、捕手は自分が投げた球をしっかり捕ってくれさえすればいいと思っているのではないか。捕手が工夫を凝らした配球もメジャーで流行の(際どい球をストライクに見せる)フレーミングも必要はない。捕手を選ばない投手と言える」(同前)
大谷はWBC決勝でクローザーとして登板した際、初めてコンビを組んだ中村悠平(ヤクルト)に口元にグラブを当てながら「甘めでいいので、どっしり構えてください」と伝えた。この言葉には大谷が捕手に何を求めているかが象徴されていた。
「スイーパーもスプリットも、変化球は捕手が真ん中に構えたミットから曲げていくだけで、直球ですら真ん中で空振りを捕れるということ。持ち球に絶対的な自信を持っている。アメリカで最後のバッターになった(マイク・)トラウト(エンゼルス)に対しても、その通りの内容でねじ伏せていた。年少の投手(大谷)の年長の捕手(中村)への言葉としては失礼なところがあると感じたが、大谷ほどの投手に言われるなら捕手は黙って“壁”に徹すると思う」(前出の元捕手)
底知れない投手としての能力
大谷はグラウンドでゴミを拾ったり、飛んできたバットを相手に丁寧に返したりと紳士的な振る舞いで知られる。その一方、かねて日本ハム関係者からは「本性は荒々しいものがある。特に投手の時にそれが出る」と“もう一つの顔”が指摘されていた。
本塁打を放っても投手への敬意を失わないなど打者としては喜怒哀楽を抑える。一転、打者を攻める投手の立場になると、制御していた攻撃的な姿勢を解放する。
「最初はどっちが本当の姿か分からなかったが、投手大谷の方が“素”に近いのではないか。ピッチクロックで配球を自分で選ぶようになってこれだけの投球をしていることに表れているのではないか。大谷は“オレ様”キャラなんだ、と」(同)
大谷は2018年10月のトミー・ジョン手術から20年7月に投手復帰し、今季で4シーズン目を迎えた。自らの腱を移植した肘はすっかりなじんだ。昨季からはスライダーを進化させ、横滑りするスイーパーという新兵器を駆使する。
登板間隔は昨季後半から中6日から中5日へと縮めた。今季は開幕から中5日だが、難なく対応している。順調にローテーションを守れば登板数は増え、サイ・ヤング賞の前提となる規定投球回到達は、昨季のような綱渡りにはならないだろう。
「大谷は今年、ここまでスイーパーを変化球の軸にしている。昨季途中から使い始めたツーシームや、以前“魔球”と呼ばれたスプリットはあまり使っていない。裏を返せば、相手に研究されても抑える引き出しがあるということ。投手としての能力は底知れない」(前出の元監督)
ダルビッシュ有(パドレス)はWBCで大谷のトレーニングや食生活などを目の当たりにし、投手大谷に進化の余地が十分にあることを見抜いていた。今季のア・リーグのサイ・ヤング賞争いではゲリット・コール(ヤンキース)ら手ごわいライバルがいるものの、大谷にとっては日本人初受賞の快挙さえ通過点にすぎないのかもしれない。
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