80年にわたる「怨念」の因果か… 青森放火殺人、一族の“忌まわしい”歴史に迫る
不幸の連鎖
それでも好彦氏は聡明で家柄のよい女性、マサさんと結婚し、ある時期までは仕事にも真面目に取り組んでいた。
「好彦の仕事は車大工。木で作った車輪に鉄板を巻く『馬車』を作る工場で働いていた。奥さんは小柄ながら賢く、働き者で、農家に手伝いを頼まれて日当をもらって働いていた」(集落の古くからの住人)
複数の子供にも恵まれた好彦氏はしかし、その後、不幸の連鎖に見舞われる。
「娘さんは精神的に病んで入院。お孫さんは自殺したし、奥さんも病死している。自宅が火事になったこともある」(同)
そうしたことが影を落としているのか、ここ数年の好彦氏について周囲が覚えているのは“鼻つまみ者”としての姿だった。
「5年ほど前、好彦は当時やっていたにんにく農家を辞めることにしたようで、私に農機を買わないかと持ち掛けてきた。ある機材を30万円で買うことになったが、後出しで、通常なら3万円くらいで買える堆肥をまく機械も20万円で買えと言ってきた。それなら全部いらないと言ったが、とにかく買えと押し付けられ、借金までして50万円を支払わされた」(先の知人)
約3年前には、
「近所のおばあさんが車を停めていたら、好彦の車にバックで衝突された。警察に連絡しようとしたところ、好彦から“警察に通報したらぶっ殺すぞ”と脅された」(前出・近隣住民)
「コップのお酒をバシャッとかけて…」
一方の十文字家では、庭先のスペースでバーベキューをしたり、夏にはプールを出して子供たちを遊ばせることも。ツーリングが趣味の利美さんはハーレーダビッドソンにまたがり、孫をサイドカーに乗せることもあった。利美さんの次女、亡くなった抄知さんは子供たちがすくすく育つ様子をFacebookにつづっていた。高齢の好彦氏がそれを見ていた可能性は低い。しかし、彼我の差は明らかだった。
「利美さんと好彦が集落の酒の席で一緒になった際、利美さんがお酌したら、好彦が“なんでお前につがれなきゃならないんだ!”と言って、コップのお酒をバシャッと利美さんにかけた」(別の知人)
先の古老が嘆く。
「十文字家は入り婿だらけだったから、男の子の孫が生まれて利美さんは喜んでいた。でも、利美さん世代からしたら関係ない、もっと古い世代のいざこざに巻き込まれてこんなことになってしまうなんて……」
老人の狂気が生み出した怨念の炎で、妻や娘や孫まで一時に炙り殺された利美さんの無念は察するに余りある。
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