国際霊柩送還士という過酷な職業を描く「エンジェルフライト」 毎回「思い込みを覆す」構図が絶妙

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 棺を開けると、隙間にトイレットペーパーのロールがぎゅうぎゅうに詰められていて、ぞんざいに扱われたご遺体は腐敗が進んでいる。あるいは銃撃による頭蓋骨陥没で顔が原形をとどめていない。決して美しくはない「死」の現実。風習や法律の異なる国との交渉や航空便の手続きも必須、タイムリミットもある。さらには遺族の怒りや悲しみを受け止めざるを得ない仕事。国際霊柩送還士という過酷な職業を描く「エンジェルフライト」を観た。主演は地上波に見切りをつけ、配信系に腰を据えたか、米倉涼子。

 米倉が演じるのは、海外で亡くなった人の遺体を遺族の元へ届ける会社・エンジェルハースの社長。業務内容もよく知らず、言葉巧みな米倉の口車に乗せられて、うっかり入社しちゃうのが松本穂香。スカジャンでセクハラ発言垂れ流しの会長(遠藤憲一)に寡黙な遺体修復オタク職人(城田優)、ギャル系(野呂佳代)に元ヤン(矢本悠馬)、柔和だが手袋を決して外さないワケありっぽい運転手(徳井優)。

 一瞬、葬儀屋社長が何かと殺人事件に首をつっこむ往年の「赤い霊柩車」シリーズかなと思った。社長(片平なぎさ)に、専務(大村崑)と事務員(山村紅葉)のコント劇場を彷彿とさせたから。終わっちゃったね、あれ。

 いや、そんな軽口たたける内容ではなかった。エンタメとは言い難い「死」を扱う業務。前半はややお涙頂戴臭。テロ事件の被害者遺族の感情描写もずっしりと重すぎてつらかった。「週末に一気見して楽しもう!」と誘える内容では決してない。ないのだが、個人的には「思い込みを覆す」構図が全話にあって、感心した。違う、違う、そうじゃ、そうじゃない、と鈴木雅之の曲が脳内に流れる感じ?

 詳細はぜひ観てほしいのだが、馬鹿息子(葉山奨之)のクズエピソードが、実は父親(杉本哲太)への敬意だったとか、総理大臣が自分の葬式に参列するくらい大物になると豪語していたガキ大将と子分(菅原大吉&井上肇)の話とか、世間からたたかれまくりの魔性の女(松本若菜)と大富豪の語られない秘話とか。前半で自分が勝手に思い込んだ人物像が、後半でガラガラと崩れる。「あー、そういうことね」と、ひとりごちるわけよ。

 それぞれの回のゲストが手だれの役者ぞろいなので、見ごたえはある。加えて、米倉&穂香のそれぞれの物語も興味深い。米倉はふたりの子をもつシングルマザー。前夫と別れた後に付き合った恋人(向井理)が何やらワケあり、しかも海難事故で行方不明っつう。続編があれば描かれると思うのだが、気になるところだ。

 穂香は優秀だが、さらに賢くて家事と育児が苦手な母(草刈民代)に否定され続けて育った。自己犠牲で家族に尽くす母親を美徳とする風潮に疑問を呈し、自分の母が死んでも悲しむ自信がないと断言するほどだ。最終話でこの母娘の物語が描かれる。第5話までは「家族の愛と絆」礼賛が前面に出ているのだが、最終話で肯定でも否定でもない、合理的な着地点を用意した点がすごくよいと思ったのよ。

 観る人を選ぶ作品、かと。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2023年4月27日号掲載

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