【叡王戦第2局】菅井竜也八段が「最高の振り飛車」で勝利 完敗の藤井聡太六冠に2つの課題

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美しさに気を取られた?

 この日の立会人は振り飛車党で知られる福崎文吾九段(63)だった。

 自身は居飛車党の三浦九段はABEMAの解説で「かつて谷川(浩司十七世)名人(61)に『感覚がおかしくなった』と言わしめた福崎さんの振り飛車の棋譜を勉強しましたよ」と話していた。そして「菅井さんは5、6歳の頃から振り飛車をずっとやってきたはず。これに対して藤井さんは若い上、振り飛車と戦うことは少なかったはず」と話し、振り飛車に対する藤井の「経験不足」をほのめかした。

 たしかに、藤井が棋士を志した時期、羽生善治九段(52)をはじめトップ棋士は圧倒的に居飛車党だった。さらに、藤井が研究に使うAIも、振り飛車の戦法はほとんど推奨しないという。菅井のような競合が出てきた今、藤井にとって振り飛車対策は今後の大きなテーマである。

 さて、現在、藤井が戦っているタイトル戦の注目度は、叡王戦より渡辺明名人(38)に挑んでいる名人戦のほうが高いのではないか。「最年少名人」の記録もかかっている。しかし、挑戦・防衛ともにタイトル戦で一度も負けていない藤井からタイトルを奪取する棋士として、叡王戦挑戦者の菅井は最右翼と言っていいだろう。

 第3局は5月6日に同じ名古屋市の料亭「か茂免」で開かれる。2021年にもこの会場で叡王戦に挑んだ藤井は、対局直後に食事の感想を問われ、長時間沈黙してしまった。おいしくなかったのではなく、食事の内容を必死に思い出そうとしたのだろう。藤井の律儀さを感じたが、重要な対局を終えた棋士に他に聞くことはなかったのかと言いたくなる。

 この日、三浦九段は2人の昼食について、「藤井さんの食事(あんかけハンバーグステーキ)は美しすぎたんです。美しさに気を取られて将棋に集中できなくなる。菅井さんの(五目あんかけやきそば)はどこでも見慣れた感じなので大丈夫」と話した。食事の見た目が勝負に影響するのだろうかと思うが、三浦九段が真面目な顔でそう語るとなんだか真実味を帯びてくる。

 藤井としては地元の愛知県で続けて負けるわけにはいかない。第3局も敗れたらカド番の黄色信号となり、「八冠全冠制覇」の夢は消えかねない。菅井は「勝敗を言っても仕方ないので、自分の力を発揮するための準備をすることだと思っています。振り飛車を好きなファンも多いので、こういった大舞台で振り飛車で活躍していければ」と抱負を語っている。

「最高の振り飛車vs.最強の居飛車」の戦いから目が離せない。
(一部、敬称略)

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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