中国をはじめBRICSで進む“ドル離れ”の動き 真の要因はアメリカにあり 心配される前代未聞の事態

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人民元が基調通貨になれない理由とは

 BRICS諸国はなぜドル離れの取り組みを活発化しているのだろうか。

 イエレン米財務長官が4月15日、「米国の金融制裁の実施がドルの国際的覇権を弱体化させつつある」と述べたように、ロシアへの経済制裁が大きく影響している。

 通貨は決済に使えることはもちろんだが、それ自体が経済的な価値を有する。

 米国が冷戦終了後に「世界の警察官」になったことでドルの価値は飛躍的に高まり、米国と敵対する勢力も争ってドルを求めるようになった。世界の外貨準備に占めるドルの割合は2001年に7割を超えたが、米国政府がドルを制裁の手段として行使するようになったせいでその魅力が落ち、直近の比率は6割弱にまで低下した。

 今回の制裁でロシア政府が保有するドル建ての外貨準備を凍結したため、「米国の意向に背けば手元のドル自体が無価値になる」との恐れがグローバルサウスの間で広がり、BRICSを中心にドル離れが起きているわけだ。

 ドル離れは今後も進んでいくだろうが、次の基軸通貨と噂される人民元がドルに代わる存在になることは不可能だ。決済通貨としての役割は大きくなったとしても、資本取引が自由化されていない人民元は中国政府の意向に大きく左右され、その価値はドルと比較にならないほど低いとの見方が一般的である。

米金融市場に忍び寄る「前代未聞の事態」

 米国の国際社会の威信が落ちる中、基軸通貨ドルの価値を支えているのは、世界で最も大きく流動性に富んだ米国の金融市場だ。

 だが、米国の金融市場には暗い影が忍び寄っている。

 連邦政府の債務は早ければ来月にも法定上限の31兆4000億ドルに達することが予想されているが、党派対立が激化している議会で上限の引き上げについての合意が得られる見通しが立っていない。

 マッカーシー下院議長は4月19日、債務の上限を引き上げる際の条件(個別の予算項目の削減案)を正式に提示したが、バイデン政権がまったく受け入れられない内容だ。

 上限が引き上げられなければ、「米国政府がデフォルトに陥る」という前代未聞の事態となる。米国が誇る金融市場が大混乱し、前述のバーンスタイン氏が懸念するようにドルの基軸通貨としての地位も大きく揺らぐことになるだろう。

 ドル離れの要因はBRICS諸国ではなく、米国が抱える政治の混迷にあるのだ。

 米国政府がデフォルト状態になれば、ドル離れどころの騒ぎでは済まない。深刻なドル危機が生じ、世界経済が深刻な打撃を被る可能性も排除できないのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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