農産物ではなく「知的財産」の輸出で活路を開け――窪田新之助(農業ジャーナリスト)【佐藤優の頂上対決】

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維持できない物流

窪田 こうした農協も問題ですが、実はいま農業にとって大きな問題となっているのは、サプライチェーンです。農産物を運んで届ける物流が維持できなくなってきた。かねてドライバー不足は指摘されてきましたが、2024年から物流業界にも残業規制が行われ、年間960時間しか残業できなくなります。

佐藤 月に80時間ですか。サラリーマンならともかく、夜通し走るドライバーはすぐに超えてしまうでしょうね。

窪田 このため北海道や九州から首都圏や関西圏に鮮度を保ちながら運ぶことが難しくなる。しかも北海道では北海道新幹線が札幌まで延伸する際、一部在来線が廃線になる可能性がある。すると困るのが――。

佐藤 貨物ですね。

窪田 その通りです。貨物までなくなってしまう。また延伸の際には青函トンネル内での新幹線のスピードが上がって、安全性の観点から貨物列車と並走できなくなる。すると貨物の運行時間が制限される。

佐藤 物流に関して農協は何か対策を行っているのですか。

窪田 鉄道についてはJRにお願いするしかない。自助努力としてできるのは、産地間で違うパレットと呼ばれる荷役台や1トンのコメを運ぶフレキシブルコンテナの規格を統一することですね。そうすればトラックに無駄なく積めるようになる。

佐藤 非常に基本的なことだと思いますが、なぜいままで統一できていなかったのでしょうか。

窪田 全国的に産地間競争があり、ウチは違うという意識が強かったためです。また地域の農協は個別に農産物を送っていました。それを全国組織であるJA全農が取り仕切って物流センターを作り、一括で送れるようにすることも必要です。

佐藤 もっとも、それでは根本的な解決にはならないでしょうね。

窪田 ええ。実はまったく別の解決法が登場しています。それは保管です。青果物は自ら熟成を促すエチレンガスを出しますが、多いと腐敗します。これを倉庫から排除して作物を長持ちさせる技術が開発されたんですね。それを使った倉庫を佐賀の物流会社が作っています。

佐藤 コペルニクス的発想の転換ですね。保管から物流問題を解決する。

窪田 青果物の種類によって熟成の進み具合は違いますが、それもコントロールできる。すると保管して価格の高い時期に出荷することが可能になり、利益にもつながります。

佐藤 こうした外側からテクノロジーで解決していくという試みがもっと出てくるといいですね。

窪田 農業自体は硬直化して、内部からなかなか変えることができない。それならこの物流の解決策のように外部から農業の弱点を補っていく。これからそういう視点も必要だと思いますね。

窪田新之助(くぼたしんのすけ) 農業ジャーナリスト
1978年福岡県生まれ。明治大学文学部卒。2004年日本農業新聞へ入社し12年よりフリー。14年、アメリカ国務省の招待でカリルフォルニア州の農業現場を視察。著書に『GDP4%の日本農業は自動車産業を超える』『日本発「ロボットAI農業」凄い未来』『データ農業が日本を救う』『農協の闇』。共著に『誰が農業を殺すのか』など

週刊新潮 2023年4月20日号掲載

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