【らんまん】「万太郎!」と孫を大声で叱る松坂慶子に注目してほしい理由

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松坂慶子の演技は圧巻

 学問所「名教館」の池田蘭光(寺脇康文・61)が言っていた通り、描かれている時代は「世の変わり目」(第7話)。人々が少しずつ自由を手にする。その境目を見せたかったのも、長田氏が万太郎の幼少期から物語を始めた理由の1つだろう。

 万太郎ら若い世代は時代の変わり目を乗り切るに違いない。今後、もっとも辛い思いをするのは“変化しないことが正しい”と信じ込んでいたタキではないか。明治期は酒税法の改正もあったので、酒造業は大改革を迫られる。老いたタキが時代の波をどう乗り越えるのかも見どころとなる。

 万太郎役の神木、綾役の佐久間、竹雄役の志尊は、いずれも従来から評価の高い人だけあり、危なげない。新人クラスを主要キャストに揃える朝ドラも新鮮だが、安定感が違う。

 圧巻はタキ役の松坂の演技だ。さすがは「最後の映画女優」とも称される人だけある。

 なにが違うか。第一に声だ。名優の条件は「1に声、2に顔、3に姿」と言われるが、松坂は歌手をやっていた時期があるほど美声である上、発声が抜群にいい。

「万太郎!」

 腹から出ている声によって、場面全体が締まる。また、滑舌もいいから、どのセリフもよく分かる。

 さらに万太郎を大声で叱ろうが、ちっとも怖くない。むしろ絶えず愛情を感じさせる。いつも万太郎を見る目に温かみがあり、慈しんでいるからだ。他界したヒサの代わりに育てているという強い思いが伝わってくる。さすがと言うほかない。

 松坂は主演として映画「椿姫」(1988年)などの傑作を数々残しているが、この朝ドラは助演としての代表作の1つになるのではないか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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