【らんまん】「万太郎!」と孫を大声で叱る松坂慶子に注目してほしい理由

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テーマは「愛」「出会いの重み」「自由」――

 考察の要素もない。「峰屋」を仕切っている祖母・タキ(松坂慶子・70)の万太郎への愛情や、女性であるゆえに酒造に携われない綾の歯がゆさなど、観る側に推し量らせる場面はあるが、セリフやモノに隠されている作者の意図を推理させるような場面はない。この点も分かりやすい。

 テーマの一端も見えてきた。まず「愛」だ。主題歌が「愛の花」なのはうなずける。そこかしこに愛がある。

 万太郎の植物への愛、やがて妻となる菓子屋の娘・西村寿恵子(浜辺美波・22)への愛、タキから万太郎への愛、死の間際まで万太郎を思っていた母・ヒサ(広末涼子・42)の愛、綾の万太郎と酒への愛、なんとか万太郎を「峰屋」の立派な当主にしたい竹雄の献身的な愛……。

 今後、寿恵子も万太郎への愛を見せる。万太郎が研究に没頭するあまり、槙野家は金に困る日が続く。金の工面に走り、万太郎の研究を懸命に支えるのは寿恵子だ。やはり貧乏だった牧野博士と菓子屋の娘・寿衛子夫人も同じだった。牧野博士と同郷で三菱財閥創始者の岩崎弥太郎にまで金を借りた。

「出会いの重み」もテーマ。出会いによって万太郎が成長する過程が描かれている。例えば牧野博士との接点はなかった坂本龍馬(ディーン・フジオカ・42)をわざわざ登場させたが、これは物語を膨らませることだけが目的ではなかった。

 龍馬は幼い万太郎にこう説いた。

「いらん命は1つもない。この世に同じ命は1つもない」(第3話)

 この考え方に万太郎は影響を受けた。博覧会で酒に酔い、木に登った際、こう口にした。

「人がつくり出したものも凄いけんど、ワシはおまえら草木のほうがずっと凄いと思う。この世で1つとして同じものはない」(第13話)

 万太郎は「峰乃月」も含め、人がつくったものより、草木のほうが尊いと考えた。人と一緒で、同じものが存在しないからだ。

 このセリフは牧野博士が残した名言とも重なる。「雑草という名の草はない」。草木にはそれぞれの特徴や個性があり、一括りにしたり、一方的なレッテルを貼ったりすべきではないと牧野博士は説いた。

 長田脚本も江戸時代まで一括りにされていた登場人物たちに個性を許し、レッテルから解き放とうとしている。

 例えば万太郎は「峰屋」の当主の座を降り、植物の研究を始める。綾も酒造りを出来ないままでは終わらせないだろう。竹雄の恋も身分差が理由となって潰えないはずだ。

 なにしろ「自由」もテーマにほかならないのである。まず、万太郎と出会った龍馬は自由と平等を求め、脱藩し、倒幕を目指した人。今後、ジョン万次郎こと中浜万次郎(宇崎竜童・77)も登場する。土佐からアメリカに渡り、自由・平等・博愛の思想を日本に持ちこんだ男だ。

 牧野博士と万次郎の場合は無縁ではない。東大とは縁もゆかりもない牧野博士を大学の植物学教室に出入りさせた矢田部良吉教授は、万次郎に英語を習い、アメリカに留学した。物語では田邊彰久教授(要潤・42)として登場する。

 なにより、万太郎自身が飛び切り自由人。批判や陰口は気に留めないわ、小学校は中退するわ、今後は自由民権運動にも加わるわ。ゴーイングマイウェイ。いずれも牧野博士の軌跡と同じだ。

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