【らんまん】「万太郎!」と孫を大声で叱る松坂慶子に注目してほしい理由
NHKの新しい連続テレビ小説「らんまん」が4週目に入る。故・井上ひさし氏の弟子だった長田育恵氏(45)による脚本は分かりやすく、面白い。井上氏の残した名言に沿っている。いくつかのテーマも見えてきた。その1つは「愛」。あいみょん(28)が歌う主題歌「愛の花」とピタリと重なる。
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井上ひさしイズムを感じさせる脚本
「らんまん」は最近になく愉快な朝ドラ。クスリとする場面がほぼ毎回ある。
例えば第12話。主人公で高知の造り酒屋「峰屋」の当主・槙野万太郎(神木隆之介・29)に仕える竹雄(志尊淳・28)が、奇行におよぶ。井戸の水をすくい、じゃぶじゃぶと浴び始めた。万太郎の姉・綾(佐久間由衣・28)への思いを断ち切るためだった。
綾は蔵人の幸吉(笠松将・30)が気になっているようだし、そもそも「峰屋」の番頭・一蔵(小松利昌・50)の息子である自分と綾では釣り合わない。時代は明治になったばかりで、世間にはまだ身分差がはびこっていた。
事情を知らない万太郎は慌てた。竹雄が風邪をひいてしまいかねない。普段は無茶な行動で竹雄を困らせてばかりの万太郎だが、やさしいのだ。
「何やりようが!」(万太郎)
「放っておいてください!」(竹雄)
揉み合ううち、万太郎が頭から水を被った。お約束の展開だったが、おかしかった。
第13話も愉快だった。1881年、東京・上野で開かれた内国勧業博覧会に清酒「峰乃月」を出品した万太郎が、下戸にも関わらず、よその蔵元に勧められ、酒を飲んでしまう。
「ワシ、飲めんがですき」と万太郎は笑いながら断ったが、信用されなかった。竹雄は心配そうに眺めていたものの、その悪い予感は的中。万太郎はたちまち悪酔いし、カエルのマネをするなどの失態をさらす。
万太郎のモデルが植物分類学の父・牧野富太郎博士なのは知られている通り。万太郎が小学校教諭の話を断った(第12話)のに対し、牧野博士は引き受けているなど、2人の歩みはやや違うものの、大筋は一緒だ。
もっとも、井戸の水を被ってしまったり、博覧会で酔っ払ったりしたエピソードはもちろん創作だ。脚本を書いている長田育恵氏が考えた。それが物語を面白くしている。
長田氏は早大でミュージカル研究会に所属し、数々の戯曲を書いた後、井上ひさし氏の個人研修生になった。弟子だ。「らんまん」の作風は井上氏の残した名言に沿っている。
「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」(井上氏の言葉)
長田氏の脚本は「おもしろい」のみならず、「むずかしいことをやさしく」描いている。例えば酒造も植物分類学も本来は難しいものの、長田氏はやさしく表現している。第12話における幸吉から綾への酒造の説明はこうだった。
「こうじの作り方1つで酒の味も変わります。味の濃いこうじを作って醸したら、もっと濃い辛口になります」(幸吉)
第14話で出てきた植物標本の作り方、学名の付け方も至って簡単だった。観ていて考え込んでしまうような場面はない。
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