陸上自衛隊のヘリは海上を飛ばない…沖縄・ヘリ事故のパイロットはいつもの精神状態ではなかったのか
熊本・那覇間の飛行
陸上自衛隊のヘリが「海上を飛ばない」という事実に、「有事の際は大丈夫か?」という議論が沸き起きる可能性がある。
しかも、洋上飛行を想定していないにもかかわらず、事故機が長時間の海上飛行を行った事実も明らかになっているのだ。
「ヘリの特別点検が3月20日から28日まで行われ、事故機は問題なしと判断されました。そして4月4日、熊本県益城町の高遊原分屯地を飛び立ち、鹿児島県の奄美駐屯地を経由して沖縄県の那覇基地に到着しました。5日は那覇市で待機し、6日に宮古島へ向かうと、レーダーから機影が消えたのです」(前出の記者)
熊本市から那覇市までの直線距離は約780キロ。全日空の熊本・那覇便は約1時間半で両空港を結んでいる。
使用機の1つはボーイング737-800で、最高速度は時速946キロ。一方、UH60JAの最高速度は時速295キロだ。事故機は全日空機の約3分の1のスピードしか出せないにもかかわらず、東シナ海の海上を飛び続けたことになる。
「師団長が乗るヘリとなると、パイロットを厳選する必要があったでしょう。常識的に考えれば、優れた技量を持つベテランのパイロットが選ばれたはずです。詳細は今のところ分かっていませんが、第8師団のパイロットが熊本から那覇まで機体を運び、同じパイロットが宮古島上空も飛んだとすると、慣れない洋上飛行に疲労し、師団長を乗せているという心理的なプレッシャーも相当なものがあったでしょう」(同・菊池氏)
リスクマネジメントの欠如
菊池氏は「パイロットの精神状態が普段と違っていた可能性もあります」と指摘する。
「もし第8師団のパイロットだとしたら、宮古島の上空を飛んだ経験も少なかったはずです。管轄などの問題があるかもしれませんが、宮古島の空を熟知しているパイロットを選ぶべきだったのではないでしょうか」
有事の際、陸上自衛隊に迅速な行動が求められるのは言うまでもない。そのためにも平時から最高度の危機管理が求められる。
だが菊池氏は「あえて厳しいことを言いますが、今回の事故では残念なことに、陸自の危機管理に問題が浮き彫りになったと考えています」と指摘する。
「危機管理上、最大の問題点は、視察に訪れた第8師団の幹部全員が、1機のヘリに乗ってしまったことです。戦時下であれば、こんな行動は命取りです。師団の司令部を一気に失ってしまう危険性があり、実際、第8師団は一時的に司令部の機能が喪失するという大変な事態に陥りました。最低でも2機のヘリに分乗し、リスクを回避するのが軍隊の常識だと言えます」
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