「うちの弁当はイベントや集まりでお使いになるのは危険です…」 創業170年「日本橋弁松」の社長が語る“メッセージの真意”

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朝からお腹が鳴って、たまらない

 朝、すし詰めの電車内でスマホを開き、何気なくツイッターを見る。すると、なんともおいしそうな調理風景の動画が目に飛び込んできたことはないだろうか。

「私が見たのは、カレーでした。大鍋で玉ねぎを炒め、じゃがいもや豚肉をドーンと投入している。スマホから香りが立ってくるようで、朝からお腹が鳴って、たまりませんでした」(30代の男性会社員)

「麻婆豆腐を見たことがあります。たっぷりのひき肉とお豆腐に、ネギなどの野菜が加わり、フツフツと煮立っていて、おいしそうでした。大きな鍋だったので、どこかのお店の調理場かと思っていました」(20代のOL)

 この動画を投稿しているのは、「日本橋弁松総本店」(@benmatsu1850)、通称「弁松」だ。ツイッターのフォロワー数は37,000人。創業170年を超える折詰弁当の老舗である。なぜ弁当屋がカレーや麻婆豆腐の動画を投稿するのか。そもそも170年超の弁当とは、どういうものなのか。さっそく、中央区日本橋室町の「弁松」本社で、社長の樋口純一さん(51)に話をうかがった。

「弊社は、文化7(1810)年に、越後生まれの樋口与一が、日本橋魚河岸で食事処〈樋口屋〉を開業したのがルーツです」

 文化年間といえば、伊能忠敬や鶴屋南北が活躍していた時期である。

「〈樋口屋〉は大盛りで人気となりました。しかも、忙しくてゆっくり食べていられない人のために、余りは包んで、今でいうテイクアウトにできるのも好評でした。その後、三代目・樋口松次郎になってイートインをやめ、テイクアウト専門の弁当店にしたのです。“弁当の松次郎”、略して『弁松』の誕生です。それが嘉永3(1850)年で、弊社ではこの年を創業年としています」

 ちなみに嘉永3年とは、ペリーが浦賀に来港する3年前である。以来170年余、八代目となる樋口純一社長の現在まで、創業当時の江戸の味を守り続けてきた。ところが、樋口社長は意外なことをいう。

「お客様から、調味料の配分を間違えたのかとのお問い合わせが、いまでも時々、あるのです」

 そういえば、同社のウェブサイトには、社長自らのメッセージがあるのだが、驚くべき言葉が載っているのだ。
《何かのイベントや集まりの際に(弁松の弁当を)お使いになるのはとても危険です》

 自社商品を「危険」と呼ぶ。そんな飲食業者が、いるだろうか。

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