「隆二の何を知ってるのか知らんけど…」 岸田総理襲撃の容疑者の父が取材に語った本心
専門家が指摘する警備の問題点
宇都宮弁護士に事件の見解を問うてみた。
「選挙期間中にこうした暴力で自分の意見を主張するというのは許されないことですよ。暴力の連鎖が当たり前の社会になると民主主義や、言論を通じて物事を解決していくという原則が崩れてしまうからね」
思えばそもそも、テロが社会や政治を動かしうるという誤ったメッセージを与えてしまった背景には、安倍氏への銃撃を許した警察がみくびられているという事情もあろう。
警視庁の特殊急襲部隊SATの元隊員、伊藤鋼一氏はどうみたか。
「今回の演説会は、駅前などで行われるような不特定多数の聴衆が集まるものではない。漁師ほか見知った面々が集まる非常にローカルな演説会です。加えて当時は雨が降っていた。聴衆はみんな屋根のあるところに集まっていて、広い範囲に警戒を要する場面でもなかった。むしろ現場は、選挙警護をするうえでは簡単な部類だったのではないかと思います」
そしてこう指摘する。
「報道によれば、容疑者は徒歩で現場にやってきた。加えて他の人より年齢も若く、リュックに荷物を入れて携えていた。地元の方たちの中には、見知らぬ顔の者がいるのを不思議に思った人もいたそうです。なぜ彼に職務質問なり声かけをできなかったのか、そこが一番の問題です」
爆発物が投じられた後の対応はどうだったか。
「岸田総理のSPが爆発物を聴衆側へ蹴り返したことは問題だ、危険だと取り沙汰されていますが、私はやむなしと考えています。彼らの役割は首相を守ることであって、爆発物を処理することではない」(同)
決定的手落ち
安倍氏銃撃事件を受けて刷新された警護マニュアルに則り、警察庁は和歌山県警の警護計画案を審査する手はずになっていた。が、ある手順が踏まれなかった。
「選挙期間中、頻繁に演説が行われるような場所については、警察庁と地元警察が合同で視察し、事前に警護計画案を作っておく必要があります。いわゆる『予備審査』と呼ばれるものですが、それが今回の会場については“要人演説の実績が少ない場所だった”との理由で予備審査の対象外となっていました」(警察庁関係者)
これぞ決定的手落ちではないか。
「“当該地は要人の演説実績が少なかった”のを理由に予備審査を行わなかったというのは正直、意味がわかりません」(伊藤氏)
かくしてのぞいた警備の穴。和歌山県警は失点をカバーしようとしてか、捜査に力を注いでいる。
「木村家への家宅捜索でパソコンやタブレット、スマートフォンのほか、火薬と見られる粉末、パイプ爆弾に使われた可能性のある金属管、さらに工具類など90点を押収しています。今後は殺人未遂を視野にパイプ爆弾の殺傷能力の有無などについても捜査を進めて行く方針です」(社会部記者)
皮肉なのは、そうした当局の熱の入れようとは裏腹に、下手をすると来たる公判の場が、長く沈黙を貫く男の弁舌の晴れ舞台ともなりかねないことである。
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