かつては猿に狙われたことも……創業150年「明治座」の食事はなぜ美味いのか

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一流料亭の料理が味わえる!

 そんな明治座だが、昭和32(1957)年にまたも火災にあい、5回目の焼失となる。このときに尽力したのが、戦後の再建時から明治座の経営に協力していた三田政吉(1910~2006)だった。日本橋人形町の名門料亭〈玄冶店 濱田家〉の二代目である。大正元年創業、100年を超える老舗で、甘露醤油などで炊いた「穴子のしぐれ煮」が有名だ。

 この三田政吉の奔走で、明治座は早くも翌年に再建する。そして三田は、これを機に明治座の代表取締役専務となり、のちに社長、会長までつとめることになるのだ。

 このころから、「明治座の食堂や弁当は、うまい」と囁かれるようになった。

「現在でも明治座の社長は、三田政吉の長男で〈濱田家〉社長の三田芳裕がつとめています。その関係もあって、明治座の料理人は、〈濱田家〉で修業するのです。現在の料理長も、〈濱田家〉から来ています」(同)

 なんと明治座の食事は、〈濱田家〉の料理人がつくっていた! つまり、芝居に行って、一流料亭の味を楽しめるといっても過言ではないのである。

 むかしから芝居に食事や弁当は付き物である。明治座には4か所の食堂があり、いっぺんに「660名」が食事をとることができる。

「公演によって休憩時間は変わりますが、たとえば4月の歌舞伎公演の場合、3幕構成なので30分の休憩が2回あります。660名のお客様が2回転で1,320名。明治座は1,368席なので、ほぼすべてのお客様に食堂でゆっくりとお食事をとっていただくことが可能です」

 昼夜2部制だから、極端な話、1日に約2,600人が明治座で食事をすることもあるのだ。調理場は明治座内にある。

 食堂メニューでの人気は、銀鱈の西京焼きが入っている「幕の内弁当・喜昇」だが、いまは創業150年記念で、「吉野鮨総本店」のちらし寿司、「うなぎ割烹 大江戸」のうな重といった期間限定の豪華メニューもある。どちらも日本橋の有名老舗店だ。

 もちろん、席で食べる館内販売の折詰弁当もある。定番は「幕の内弁当」「彩り弁当」だが、いま人気なのが「漁師のまかない深川めし」、通称「深川弁当」である。

「これが《ファベックス 惣菜・べんとうグランプリ2023》における“わが社自慢の惣菜・べんとう部門”で金賞を受賞したのです。江戸甘味噌であさりを煮てご飯にかけて食べる、むかしながらの深川めしを再現したものです。昨年9月から販売開始し、すでに1万個以上出ている人気商品。監修は、明治座副料理長の岡本茂です」(同)

 劇場内で販売される弁当がコンテストで優勝するのは珍しいことだろう。

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