子供にタブレット禁止は「バカ」の言い分なのか 『スマホ脳』著者が示した大人の見識
スーパーママの注目発言
子供にタブレットを使わせるべきか否か。使わせるとすれば何歳からか。
そんな教育に関するテーマが、議論を呼んでいる。
発端は、NewsPicsの配信番組に出演した佐藤亮子さんの発言。佐藤さんは「子ども4人を全員東大理IIIに合格させたスーパーママ」として知られる。
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4月11日に公開された「ChatGPTは教育の敵か、味方か?」をテーマにした議論の中で、佐藤さんは、ChatGPTなど新しいテクノロジーを教育の場に導入することに慎重な姿勢を示した。注目を集めたのが、佐藤さんの「12歳まではアナログで育てて、タブレットなんて全部捨ててほしい」という発言だ。佐藤さんは、ChatGPTの有効性を否定はしていないものの、教育の場では年齢制限が必要だと持論を展開。そこからさらに論を発展させて、タブレットを無防備に与えると「子供はえらいことになっちゃう」と懸念を口にした。
番組内での議論は落ち着いたトーンで終わったのだが、この発言を批判したのが、堀江貴文氏だ。堀江氏はフェイスブック上で、誰とは明記していないものの佐藤氏の発言を紹介した画像を掲載したうえで「こいつバカでしょ笑」とコメント。
さらにこの一件がネット上で記事になると、脳科学者の茂木健一郎氏もツイッターで「全面的にホリエモンに賛成」と表明。さらには自身のYouTubeチャンネルで、「ざます」言葉の教育ママを揶揄するような動画も配信した。
茂木氏は、佐藤氏のような主張は日本のガラパゴス教育の典型であって、こんな「東大理III合格」を誇るようなこと自体が、もう時代遅れなのだ、ということを言いたいようだ。
堀江氏もまた新しい技術への抵抗を示す佐藤氏の姿勢を「バカ」と感じたということだろう。
『スマホ脳』著者の見解は
現実問題として、12歳までタブレットに触らせないというのは難しいかもしれない。かなり独自の教育方針を徹底させないと、スマホその他から隔離してしまうのは現代では困難だ、というのが親たちの本音だろう。
ただ一方で「12歳まで触らせない」は極端にしても、佐藤氏の懸念は「時代遅れ」と一蹴していい類のものなのかは議論の分かれるところだ。
スマホの危険性に警鐘を鳴らしたベストセラー『スマホ脳』の著者、アンデシュ・ハンセン氏が、親と子のために執筆した『脱スマホ脳かんたんマニュアル』(マッツ・ヴェンブラード氏との共著・久山葉子 訳)には、タブレットを使う際の注意点、メリットとデメリットを解説した項がある。小学生が読んでもわかるように書かれたため、その説明は非常に平易でわかりやすい。
以下、抜粋してご紹介しよう(同書をもとに再構成しました)
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スクリーンと紙ならどちらがよく覚えられる?
同じ文章を「紙で読む」のと「スクリーンで読む」のではちがいがあるのでしょうか。実はあるのです。
ノルウェーで行われた研究で、生徒に短編小説を読んでもらいました。生徒の半分は紙でそれを読み、残りの半分はスクリーン上で読みました。結果、紙で読んだ生徒のほうが内容をよく覚えていました。特に、どういう順番で出来事が起きたかをよく覚えていました。
それがなぜなのか、理由はいくつかあるようです。生徒はスクリーンを見ただけで、脳がいつものドーパミンのごほうびを期待してしまい、脳の容量の一部を「そのことを考えないように努力する」ために使ってしまいます。それに脳は、紙の本というのは読み始めると夢中になって、周りが見えなくなるものだというのを知っています。
もう1つ考えられる理由は、「小さな手がかりの記憶」です。本を手に持った感触、紙をめくる音、そういったことも記憶に入ります。手触りや音だけでなく、ページの見た目やページのどのあたりにそれが書かれていたか、といったこともです。そういった記憶がタグになり、小さな付箋(ふせん)を貼ったように、読んだ内容を記憶しやすくするのです。
研究ではまた、文章が難しいほうがスクリーンと紙で読むちがいが大きくなることも分かりました。つまり、難しい文章の場合は紙で読んだほうが良いのです。マンガを読むくらいならどちらを使っても関係ないですが、アインシュタインの相対性理論を学びたいなら(もちろん学びたいですよね?)、紙の本が勝つのです。
クリックできるリンクの貼られた文章の問題点は
気づかないうちに気を散らされていることもあります。1つ分かっているのは、文章に貼られたリンクが私たちの気を散らすということです。
ある実験で、たくさんの人にパソコンで文章を読んでもらいました。そのあとに、いくつかの単語がクリックできるようになっている文章も読んでもらい、それからその2つの文章の内容を答えてもらいました。すると、リンクが貼ってあった文章のほうが人々の理解が悪く、覚えも悪かったのです。なお、誰もリンクをクリックしてはいません。
これはなぜでしょうか。おそらく、リンクを「クリックしないと決める」こと自体に何度も脳の容量を使ったせいです。スマホが近くにあると、「手に取らないようにする」ことに脳の容量を使ってしまいますが、それと同じことですね。
スクリーンでは雑に読んでしまう
スクリーン上で読むほうが、紙よりも読むスピードが速くなり、表面的にしか頭に入っていないようです。そのせいで細かい点を見逃したり、文が否定形だったことを見逃したりしてしまいます。語尾の「ます」と「ません」を読みまちがえると、文の意味が真逆になってしまいます。
スクリーンでは、流し読みをするのに慣れていて、部分的に飛ばして読んでしまったり、通知音に邪魔されたりします。そもそもスクリーンで読むというのはそういうものだと思っているから、集中して読もうとしても、うっかり読み流してしまうのかもしれません。
なのに、スクリーンで読んでもちゃんと理解できている、私たちはそう思いこんでいます。実際には理解できていなくても分かったつもりになって、さらっと次に進んでしまうのです。
紙で読むことで集中しよう
フウタ(注・本書に登場する子供)が集中が苦手なのは、すぐに気が散ってしまうせいです。そしてスクリーン上の文章には気が散る要素がたくさんあります。スクリーン自体がドーパミンのごほうびをすぐにあげるよと誘ってきますし、素早く表面的に読んでしまうので、内容をあまり覚えていません。
集中するのが苦手な人は特に、紙で読んだほうが良いでしょう。フウタの場合も、タブレットで読むよりも、本で読んだほうがたくさん学べます。たとえフウタが「絶対にそんなはずはない」と言っても、そうなのです。
スクリーンのほうが良いことも
スクリーンで読むほうが良い場合もあります。たとえば、大量の文章をざっと読んで、知りたいテーマに関係することだけだいたい分かればいいような時にはスクリーンがぴったりです。前に教科書で習ったことを復習する場合もスクリーンが良いでしょう。同じ内容を前とは別の形で読むと記憶しやすくなります。色々な場所で読むのと同じで、スクリーンがその記憶に新しいタグをつけてくれるのです。
ペンかキーボードか
子どもが文字を覚える時はキーボードで練習するよりも、ペンで書くほうが良いでしょう。ペンが紙に触れる感覚を身体で記憶するからです。それに手の細かい動きの練習にもなります。脳が手や指を細かに操れるようになり、大きくなってからも非常に役に立ちます。
しかしあなたはもうとっくに文字を書けるでしょうから、その場合はペンとキーボード、どちらを使うと良いのでしょうか。それは何をするかによるようです。誰かが話していることをメモするにはペンが最適です。
キーボードで書くほうがスピードが速く、たくさん書くことができます。しかしペンで書くと、書きながらも何を書くか、つまり何が重要かを選んでいかなくてはなりません。そのひと手間のおかげで学べるのです。
文章を読みながらペンでメモを取る時も同じです。紙に書く前にもう一度、頭の中で情報を整理するからです。
自分で文章を書く場合は?
自分で文章を書く時には、それが事実に基づいた文章であっても小説であっても、さっきとは答えが変わってきます。キーボードで書いたほうがかんたんに文章を変えられるし、章や段落を移動することができます。
それに、誰かに文章を読んでもらうこともあるでしょう。あなたは自分の手書き文字を問題なく読めるでしょうが、他の人はあなたの手書きよりもキーボードで打った文字のほうが読みやすいものです。
つまり、メモを取るにはペンが良くて、キーボードは自分でもっと長い文章を書く場合に便利です。
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ハンセン氏が述べているのは、多くの人にとって受け入れやすい、合理的な説明ではないだろうか。新しい技術のメリットとデメリットを知ったうえで、上手に付き合っていこう、ということである。佐藤氏も、堀江氏と茂木氏も子供のためを考えている点は共通しているはず。あまり極端な物言いをせず、落ち着いて互いの言い分に耳を傾けて、よりよい道を模索するのが、大人の見識ということかもしれない。
※『脱スマホ脳かんたんマニュアル』から一部を再編集。