稲葉延雄・NHK新会長が力を入れる「改革の検証」って何?「前会長の劇薬で組織がボロボロになりつつある」
謎の昇進試験
「前田氏は《今後は、いわゆる「タテのライン」による人事権の行使は一切認めません。(中略)人事異動の最終判断は、NHKグループ全体を俯瞰した視点で、私が適材適所の人事を行います》というメッセージを職員に発信し、中堅の職員を地方局の局長など幹部に登用するため、昇進試験を導入しました。もちろん会長1人で1万人以上もいる職員の適材適所を見抜くことなど不可能です」
そこで外部の力を借りることに。
「昇進試験を民間企業に委託したのです。ところが、この試験は何をもって合否が判定されているのかが不透明なのです。試験には集団ディベートも行われるのですが、一説には前田氏の経営計画をいかに理解しているかで合格が決まるのではないかという声まであったほど。日頃、取材や番組作りに熱心な連中が受からずに、普段から時間に余裕があって試験の勉強や対策ができた職員が合格していきました。一方、地方局では、試験に受かったとはいえ特に実績があるわけでもない中堅職員が局長に就任したりしましたが、経験不足ゆえ地方の政財界要人とのパイプ作りや信頼醸成もままなりません。そんな局長がベテランの記者やディレクターに指示を出したところで、誰もついていかないという事態が頻発しました」
ベテラン職員にも大きな変化があった。
「“役職定年制”を導入し、ベテラン職員はある年齢に達したら役職が剥奪され、平社員になりました。人件費は確かに削減されましたが、ベテラン職員の不満は鬱屈し、中堅職員にも未来への希望はなくなりました。そのため続々と職員が辞めていっているのです」
いまや退職者は毎月20~30人ではきかないという話さえある。
武田アナも改革の犠牲者?
「新人におもねった人事策も不評です。NHKは入局1年目の職員は地方に赴任するのですが、地方局に配属すると辞めてしまうと考えた前田氏は、新人の配属先を札幌、仙台、名古屋、大阪、広島、松山、福岡の7つの拠点局に限定しました。そのためそれらの拠点局は大勢の新人を持て余して配置に困り、教育もままならなくなった。反対に新人が1人も来ないローカル局は人手不足に喘いでいます。新人ゼロの局では、それ以前に赴任していた若手がいつまでも雑巾がけみたいな仕事をさせられ、これまた嫌気がさして辞めていくという悲惨な状況に陥っています。結局、誰も幸せになっていないのです」
今年、NHKのエースだった武田真一アナ(55)がフリーに転向したのも“改革”のせいと言うのは、大阪局関係者だ。
「武田アナが大阪に赴任してきたのは一昨年ですが、前田氏の肝入で立ち上げられた『列島ニュース』(平日13:05~13:55)を担当させるためだったとも言われています。NHKではお昼のニュースの後、それぞれの地域で5分間のローカルニュースを放送していますが、大阪局がそれを再編集して『列島ニュース』という番組名で全国放送しているのです。『こんなの誰が見るのか』、『なんで大阪がやらなければいけないのか』という不満が大阪放送局には渦巻いています。『ニュース7』や『クローズアップ現代+』などの看板番組を背負ってきた武田アナは、そんな状況が嫌になったという指摘もあります」
「列島ニュース」が局内でこんなに不評だったとは……。
「稲葉新会長が“改革の検証”を訴えているのはそのためです。就任会見で“温かみのある人事”と言ったのも、これまでいかに血の通わない人事が行われていたかということの裏返しでしょう。今回発表された執行部人事は4月25日付けで発効されます。彼らがNHKをいい方向に変えられるのか、それともこのまま沈んでしまうのか、職員はもちろん役員たちも注目しています」