音楽会や観劇を自粛していたら長生きできない…免疫力の維持に必聴の作曲家の名前は

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オペラ《椿姫》を聴いたマウスが長生き

 心臓を移植したマウスは、免疫の拒絶反応が原因で、平均7日ほどで死んでしまうが、イタリアの作曲家ジュゼッペ・ヴェルディのオペラ《椿姫》(日本では一般にこう表記されるが、正しくは「道を踏み外した女」を意味する「ラ・トラヴィアータ」という)を聴かせたマウスは、生存期間が平均で40日にまで延びたというのだ。

 次に生存期間が長かったのがモーツァルトの音楽を聴いたマウスで、平均20日間ほど。一方、英語のリスニングのCDや工事現場の音、周波数音などを聴かせても、生存期間に変化は見られなかったという。したがって、「この研究結果から言えることは、音楽が脳を介して免疫系によい影響を与えている、ということ」だと、新見氏は結論づけていた。

 コロナ禍においても、オペラ「椿姫」は上演されていたし、それ以外にも多くのオペラを鑑賞する機会はあった。むろん、モーツァルトの音楽も頻繁に演奏されていた。録音を通してそれらを鑑賞することも可能だが、やはり生の演奏の刺激には敵わないだろう。それに会場に出向くことが、足腰の機能の維持につながる。一石二鳥のはずだったのである。

 思い返せば、コロナ禍において、感染しないためにいちばん必要なのは免疫力だ、ということも繰り返し説かれていた。ところが、多くの人が感染を防ぐために家に閉じこもって運動のほかにもさまざまな刺激から遠ざかり、免疫力を低下させていたなら、こんなに皮肉な話はあるまい。

指揮者が長生きである理由

 音楽家には長寿が多い。その典型が指揮者だが、その理由はどこにあるのか。前出のコンサート会場によく足を運ぶ医師が語る。

「指揮者はたえず多くの曲を読み込み、場合によっては暗譜を試みています。こうしたインプットを通じて、脳への刺激が絶えません。脳を活性化するにはインプットに加えてアウトプットも必要ですが、指揮者はオーケストラを前に常にアウトプットを求められます。演奏される音楽がまた、免疫力の向上を促しているし、指揮しているあいだは体を動かしているので、身体も鍛えられます。指揮者の活動には、長生きの秘訣が詰まっています」

 むろん、一般の人は指揮までしなくていい。コンサートやオペラの会場に足を運び、そのためにできれば予習をして、すばらしい音楽に触れたのちに、それへの知識をもっと増やそうと努力する。それが日常化されれば、上に記された指揮者の活動ときわめて近くなる。

 高齢社会である以上、高齢者がなるべく健康を維持できなければ社会機能がマヒしてしまう。音楽を聴きたい人が我慢して、外出を控えている場合ではないのである。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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