国の分断を回避するために今、アメリカが考えていること 世論調査で浮き彫りになる米国人の変化
米国で人工妊娠中絶の是非を巡る対立がさらに深まっている。
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南部テキサス州の保守派連邦判事が4月7日、米食品医薬品局(FDA)が2001年に行った経口妊娠中絶薬「ミフェプリストン」の承認差し止めを命じたのに対し、司法省が10日、差し止めの保留を連邦控訴裁判所に求めた。
米国では経口薬による中絶が増加しており、米疾病対策センター(CDC)によれば、2020年の中絶の51%が経口薬で実施されたという。
今回の対立も最終的には連邦最高裁判所(最高裁)に持ち込まれる可能性が高く、その判断に注目が集まっている。最高裁は昨年6月、49年ぶりに中絶の権利の合憲性を否定する判決を下しているからだ。
この判決が出るとリベラル陣営は激怒し、米国社会は大混乱に陥ったことは記憶に新しい。ニューヨーク・タイムズは当時「(アメリカ合衆国ではなく)アメリカ分裂国になってしまった」と評したほどだ。直後にビジネスインサイダーが実施した世論調査でも43%が「10年以内に内戦が発生するだろう」と回答した。
トランプ氏の基礎をめぐっても
残念ながら、最近の米国には頭痛の種が尽きない。
トランプ前大統領の起訴も国を2分する前代未聞の出来事だ。
4月3日に公表されたCNNの世論調査によれば、民主党支持層の94%が「よくやった」と回答したのに対し、共和党支持層の79%が「間違った起訴」との判断を下した。
興味深いのは、トランプ氏の起訴が米国の民主主義に及ぼす影響について「肯定的」が31%、「否定的」が31%と同率だったことだ。
トランプ氏の裁判は来年初めから本格化する見通しだ。共和党の大統領候補を選ぶ予備選挙は来年2月に始まることから、トランプ氏の裁判が大統領選挙の大きな争点になる可能性が高い。「大統領経験者を司法的に断罪しない」という長年の政治慣行が今回の起訴で破られたことを不安げにみつめる米国民が少なくないことの証左だろう。
米国で愛国心の低下が顕著になっているのも気になるところだ。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が3月22日に公表した世論調査によれば、「愛国心は極めて重要」と回答した割合は38%にとどまった。同様の調査を実施した1998年に70%が「極めて重要」と回答しており、その落差は際立っている。
ギャラップ社が昨年の建国記念日(7月4日)に公表した世論調査でも「米国人として誇りに思う」と回答した割合が38%となり、過去最低を記録している。
「先進国の中で米国ほど愛国心が旺盛な国はない」と言われてきた。「いたるところで星条旗がたなびき、国歌斉唱が日常化している」というのが古き良き米国のイメージだ。
多様な人種、移民、宗教からなる米国で愛国心は国を1つにつなぎとめる唯一の精神的なよりどころとされてきた。だが、個人主義が浸透した結果、米国人としての共通の価値観よりも、それぞれが持つ異なる人種的、文化的バックグラウンドに関心が集まる傾向が強まったと言われている。
前述のWSJの調査では「自分にとって勤勉であることはとても重要だ」と回答した割合が、1998年の83%から67%に低下したことも明らかになっている。
愛国心と同様、国を1つにまとめてきた「勤勉」という価値観にも陰りが見えてきた背景には、「一生懸命働けば、米国で成功できる」というアメリカン・ドリームが失効しつつあるという悲しい現実がある。
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