「池袋暴走事故」妻子を奪われた遺族が、民事裁判で91歳「飯塚受刑者」からの“謝罪”申し出に激怒した理由
“法廷”での謝罪にこだわった理由
飯塚受刑者はなぜ、謝罪の場を法廷にこだわったのか。
松永さんは刑事訴訟と並行して20年10月、総額1億7000万円の損害賠償請求訴訟を東京地裁に起こした。裁判は現在も継続中だ。交通事故の責任をめぐる民事訴訟では、相手が任意保険に加入している場合、実態としては損保会社との間で争われる。
被告の申し出は、この裁判の法廷の場での謝罪である。つまり謝罪の事実が法廷で示されれば、「被告の反省」ととらえられ、原告への賠償額を決める際、被告にとって有利にはたらく可能性がある。過去に起きた交通事故の民事訴訟判例では、事故後の謝罪の有無など加害者の態度や言動が、賠償額算定の基準になっている。
事故直後からの飯塚受刑者による謝罪申し出の経緯を辿っていくと、賠償額を抑えたいがための謝罪と捉えられても仕方がないだろう。原告代理人が準備書面でその可能性を指摘すると、被告代理人は、「謝罪の申し入れは賠償額減額のためなどという意図は全くなかった」と明確に否定した。
結局、謝罪は実現せず、飯塚受刑者は申し入れから約20日後に刑務所に収監された。松永さんはその後に東京地裁に提出した陳述書で、このように結んでいる。
「今回の飯塚氏側の立ち振る舞いは、あまりに私たちに配慮がなく、自己中心的でした。専ら『自分たちのためだけの謝罪』の申し出であったとしか思われず、刑事事件が確定したという事実や安堵感が吹っ飛ぶほどの衝撃でした。そのような心情をぜひご理解いただきたいと思います」
[3/4ページ]