独自のICTサービスで建築現場を変える――平野耕太郎(日立建機執行役会長CEO)【佐藤優の頂上対決】

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稼働状態を常時チェック

平野 いま私どもの機械には、すべてコンサイトという安定稼働をサポートするICT(情報通信技術)が搭載されています。機械にさまざまなセンサーが取り付けてあり、それが異常を感じると、お客様にも私どもにも、アラームで知らせてくるようになっているのです。

佐藤 故障の予兆を検知したら、電波で飛ばすのですね。

平野 はい。アプリが入っているスマートフォンなどに届きます。例えばある機械の作動中のエンジンオイルのデータが急に悪化したとしますね。するとすぐにオイル監視センサーがそれを検知し、現場でも事業所でも緊急アラームが鳴ります。そしてその異常のデータから、オイルの劣化が原因だと分かる。次いで私どものサービス員は現場に連絡を取り、純正オイルを持って交換しに行きます。これによってエンジンの不具合を未然に防ぐことができます。

佐藤 機械が常に点検状態に置かれるわけですね。

平野 はい。あるいは20トンクラスの油圧ショベルから緊急アラームを受信したとします。エンジンオイルのフィルターに異常がある。支店から現場に連絡を入れてみると、接触事故が起きたことが分かった。そこでアラームの画面から対応マニュアルをダウンロードする。そこにはお客様への確認事項、修理に必要な部品や工具、そして修理にどのくらいの時間が掛かるかが出てきます。

佐藤 修理の所要時間まで出てくるのですか。

平野 ええ。所要時間や修理方法は、昔は経験と勘で判断していました。それが誰でも一目で分かるようになっている。また機械の位置情報も出てきますから、現地までどう行けばいいかも教えてくれます。

佐藤 すぐに駆け付けられるわけですね。また修理に掛かる時間も分かっているなら、どれだけ現場を止めておけばいいかも予測できる。

平野 その通りです。いま私どもの機械は世界113カ国で、約30万台が動いています。そのすべてにコンサイトが搭載されており、33言語で展開しています。このサービスの契約率は世界では74%、日本では90%以上です。そこから日々データを集め、また過去のデータも併せて、緊急なのかどうか、どんな修理で何が必要かなどを瞬時に判断し、サービス員が現場に急行するのです。

佐藤 画期的な仕組みですね。

平野 そうした緊急時の対応だけでなく、普段から機械の調子を点検して、月に1回、定期レポートもお届けしています。また緊急アラームを受けて修理した後にも、レポートを作成します。そもそも建設機械は、日々土や岩と戦っていますから、機械の消耗が早い。だから常にメンテナンスが必要です。でもコンサイトがあれば、機械がどんな状態にあるのかを常時把握できます。

佐藤 これはいつから導入されたのですか。

平野 日本では2013年、海外では2014年からです。機械のデータ自体は2000年から取っていました。最初はそれを製品開発に生かそうと考えていたんですね。でもコンサイトを始めてみると、「これは使える、安心だ」と、お客様からの評判がたいへんよかった。そこでお客様から出てくるさまざまな要望を取り入れて、この仕組みをどんどん拡充させていきました。

佐藤 同業他社にはこうした仕組みはないのですか。

平野 みなさん、データは取っていますが、ここまできめ細かくソリューションとして提供しているのは聞いたことがありませんね。なぜかというと、私どもはお客様に直接販売、直接サービスをしているから、どんなことに困っているのか把握できるんです。もちろん一部では代理店も使っていますが、基本は自分たちでやります。大変ではありますが、それによってお客様の課題や要望が見えてきますから。

佐藤 だからダイレクトに要望が届く。

平野 私どもは新しい機械を売るだけではなく、レンタルも中古車も扱っています。このコンサイトがあることによって新車当時からの修理履歴がわかりますから、整備も修理も私どもの保証を付けるなどして適切に行うことができます。つまり一番いい状態でお客様にお届けすることができる。また、データからその地域の環境に応じ、機械を最適化することもできます。

佐藤 コンサイトが全体の事業を作り替えている。いまはどの企業もICT、ICTと言っていますが、そのお手本のような事業ですね。

平野 このコンサイトによるサービス、レンタル、中古車再生、ファイナンスなどを「バリューチェーン」と呼んでいます。いま、この売り上げ比率がだいたい42%です。今後はこれを50%まで引き上げていくつもりです。

佐藤 これはサブスクリプションと考え方がよく似ている気がします。機械を売り、中古車になってもレンタルになっても、それを最後まで追ってメンテナンスを行うわけですから、実際はずっと機械を管理している。だから顧客にはそれを使うサービスを提供しているのと同じことです。非常に興味深いビジネスモデルを作られましたね。

平野 お客様のお困りごとに対応していったら、こういう仕組みができたという感じですね。

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