【岸田首相襲撃】再び露呈した警備体制の穴 警視庁OBは「金属探知機や手荷物検査を徹底するのは無理」

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要人警護の転換点となった事件

「その方針が180度変わったのが1992年3月、当時の金丸信・自民党副総裁が演説後に、前から4列目の席に座っていた右翼団体構成員の男性に銃撃された事件です。この事件以降、それまでの護対象者に視線を向けて、周囲から近づく不審者を警戒するのではなく、警護対象者の背面に立ち、対象者と同じように聴衆の方を見る対面警護に改められました。また、制服警察官を多く現場に配置する、威力配備を有効活用するようになったのです」(警視庁OB)

 現場で何より警戒するのは一般聴衆を装って、会場に入る犯人だ。今回、演説する岸田首相の前には地元漁港の関係者を集めていた。安倍元総理事件の反省から、岸田首相の背後には誰も近づけさせず、直近には警視庁SP、その周辺に和歌山県警の警察官を手厚く配置するなど、警備計画が十分に検討されていることは分かる。

「昨年の警護要則の改定で新設された、警察庁と当該都道府県警が事前に現場を確認する『予備審査』が、今回は行われていないことも指摘されました。これも必ず行うものではなく、やはり必要に応じてです。安倍元総理のケースは、駅前で建物がいくつもあり、不特定多数の乗客、通行人、車両が行きかう場所でしたが、今回は漁港で集まる人間も漁港関係者が多い。また、オープンスペースでもあり、予備審査の必要性を感じなかったとしても無理はない」(前出・警察庁関係者)

 犯人は火薬を使用した爆弾を使用した。金属探知機が無理なら、警察犬を導入して事前対策を取るべき、という意見もあった。

「一口に警察犬といっても、災害現場などで生存者を見つけ出す警備犬は生きている人間に反応するのに対し、刑事警察が運用する警察犬は、埋められた死体など、死んでいる人間に反応する。税関が空港で運用する麻薬犬は、薬物に反応するなど、目的と用途に応じた訓練を積んでいるのです。しかも、警視庁のような大きな組織なら警備犬も警察犬もいますが、地方警察はそこまで潤沢ではありません。選挙の応援演説にいって大きな犬がウロウロしていたら、有権者にも嫌がる人はいるでしょうし」(同)

 今回の事件を受けて先述した警察庁の指示に加え、金属探知機や、不審人物を識別できるAI技術の導入を指摘する専門家の意見なども数多く寄せられている。だが、先の警視庁OB氏によれば、警備現場で難しいのは「善良な市民を相手にしている」という前提であるという。

「安倍元総理を銃撃した山上徹也容疑者は逮捕後すぐに旧統一教会との関連性を供述しました。しかし、木村容疑者はすぐに動機を語っていません。自己顕示のためなのか満足感を得るためだけの愉快犯なのか、現時点で断定はできません。しかし、明確な動機や目的を持っている対象者であれば事前情報収集や身辺への基調・追跡捜査から犯行を防ぐことは可能かもしれません。しかし、犯人を除けばすべての人が善良な有権者である演説会場で、入り口を狭くして金属探知機や手荷物検査を徹底するのはちょっと無理があるのではないかと思います。警備・警護は100点か0点しかないと現職のころから言われましたが、実務は相当、難しいものがあります」

 警備の要諦は、「常に悲観的になり、心に地獄絵図を描け」であるという。今回は警察官1人のけがで済んだが、事件を教訓としてさらなる警備の充実を図ってもらいたいところだ。

デイリー新潮編集部

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