「教場0」 キムタクの存在感ばかり注目されるが、正統派ミステリーとしての評価はどうなのか
市原隼人の起用の是非
もう1つのエピソードの犯人には警察学校を中退した過去があった。妻をひき逃げ死させられた町工場社長の益野紳祐(市原隼人・36)である。ひき逃げ犯でリサイクルショップを経営する海藤克剛(勝矢・47)を密造銃で射殺し、自死に見せかけた。
益野の1人娘・麗華(山田詩子・8)が「ひゅーひゅー」と喉を鳴らすのが印象的だったが、これが推理のヒントなのかどうかは当初、オブラートに包まれた。益野は「ストレスが原因」「警察アレルギー」と説明していた。
麗華には実際にストレスがあった。母親が不慮の死を遂げた上、自分の目撃証言から海藤が逮捕されたものの、証拠不十分で起訴できなかったからである。益野には悔しくてならなかった。
もっとも、アレルギーが犯罪立証のポイントになるというヒントは早くから出されていた。海藤の殺害現場に臨場した瓜原が、ホコリが原因でくしゃみをすると、風間はこう言っていた。
「アレルギーか。世の中にあるもので誰かのアレルゲンにならないものはない」(風間)
麗華の場合、火薬アレルギーだった。だから益野が海藤を射殺したり、新たに銃と弾丸を密造したりすると、喉が鳴った。合理的であるものの、観る側にはなかなか気づかせず、うまい構成だった。
この事件の捜査中、瓜原は警察学校に射撃訓練に行った。その際、かつて益野の教官だった四方田秀雄(小日向文世・69)から、重要な意味を持つ証言を得る。
「益野君は正義感が強くてねぇ。拳銃操作にも長けていた。しかし、体力がなくてねぇ。卒業間近の秋にやめていった」(四方田)
重い意味を持っていたのは「拳銃操作に長けていた」ということより、むしろ「正義感が強い」だった。正義感は時に暴走する。法が悪人を裁けないとなると、自分で制裁を加えようと考えてしまうこともある。
体格のいい市原隼人が「体力がない」という役柄だったことに違和感をおぼえた人もいるようだ。それは分かる。体力がないようには見えない。半面、益野は思い込みの強いファナティック(狂信的)な人物である。市原はストイックなキャラクターやファナティックな人物が似合う。この人選に間違っていなかったのではないか。
捜査の手が自分に迫ると、益野は麗華に対し、こう漏らした。
「パパがいなくなったら、東京にいるおじさんと暮らして、待っててくれる?」(益野)
狂っていた。益野が刑務所に入ったら、麗華は母親のみならず、父親まで失ってしまう。1人ぼっちになる。そう考えたら、いくら憎くても海藤を殺せない。だが、犯行におよんでしまった。正義感が悪い形で出た。歪んだ男・益野を演じるのはやはり市原で良かったのではないか。
風間は後に警察を恨む。理由は今後、明らかになる。だが、第1話でその片鱗は見えた。益野が逮捕時、風間にこう言ったからだ。
「警察学校の教官になれ。そうすりゃあ、出来の悪い警官が減る」(益野)
益野は悔しかったのだ。妻をひき殺した犯人は海藤だった。麗華の証言も正しかった。それを警察が信用しなかったから、自分が殺人犯になるしかなかった。一方、風間は黙っていたが、捜査に完璧を求める男だから、忸怩たる思いだったに違いない。
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