官僚の不満が政治を動かす 「総務省捏造文書」問題で読み解く“本当の狙い”
民主党の「政治主導」が招いたこと
こうした解説を読み、読者の中には「やはり安倍政権の官邸主導がゆがみを生んだのだ」と感じる方もいるかもしれない。
しかし、事はそう単純ではない。
今回の顛末を見ると、筆者には旧民主党政権(2009-12)が思い出される。
あの時代、「政治主導」を主張した民主党の政治家たちは、官僚が表に立ち、政策を実現することを極端に嫌った。一方で、細かいこと、面倒なことは全て官僚任せという傾向があった。筆者が目の当たりにしたのは、ある省庁の記者会見で、冒頭で華々しく挨拶した後、「詳細は事務方に」と質疑応答を官僚に押し付けて去っていった、ある政務官の姿だ。おそらく中身を全く理解していなかったに違いない。
こんな政治家には付き合っていられない、と考えただろう当時の官僚たちは、民主党政権に対し冷ややかな態度をとるようになり、政権はレームダックと化したのだった。官僚たちが「あえて何もしなくなった」ことが、結局は民主党政権を倒す引き金になったと筆者は考えている。
話を元に戻そう。総務省の行政文書問題は、結局誰を利したのだろうか。
立憲民主党の支持を拡げたということは無さそうだ。
仮に総務省の一部の官僚が大分県知事選に影響を及ぼそうとしたとすれば、失敗に終わっている。
一方で、本来この件ではメインのターゲットではなかった高市氏にダメージを与えることには成功した。
岸田政権にとっては、何も手を下さずに、旧安倍首相の取り巻きである高市氏と礒崎氏の勢いを大きく減退させることには成功した。しかし、それが長い目で見てプラスかどうかはわからない。
旧民主党政権時代の、勘違いした「政治主導」に対する不満のように、勘違いした「官邸主導」に対する官僚の不満が政治を動かした可能性は高いと見ている。
[3/3ページ]