官僚の不満が政治を動かす 「総務省捏造文書」問題で読み解く“本当の狙い”

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永田町と霞が関ではよくあること

 ここで「官僚の不満」をキーワードに今回の「捏造文書」問題を見てみたい。

 小西氏が3月2日に公表した文書には、礒崎氏が、総務省と法解釈について協議を重ねた様子を詳細に記されている。総務省は3月7日、これが行政文書であると認め、さらに3月22日には「捏造ではない」とする調査結果を公表する。「礒崎補佐官自身が官邸内を仕切られるご意向だったので、こちらはその前に高市大臣へのご説明とご了解が得られることが大前提であるとの認識で動いていた」との担当者の発言も紹介した。

 高市氏と異なり、礒崎氏は総務省文書に書かれた自身に関する部分を否定していない。文書の中で真偽が問題になっているのは、あくまでも高市氏に関する部分である。

 総務省の調査によれば、官僚は高市氏にきちんと説明したことになっているが、本人は「知らなかった」という。この行き違いについて長年、政治家との交渉を担ってきた他省庁の官僚は「霞が関・永田町では日常茶飯事な、政治家と官僚のミスコミュニケーション」と解説する。

 官僚からすれば、本来は関係がないはずの政府高官に無理やり押し込まれた案件を、大臣に説明して、自分たちにとって正解と思う結論に導くのは気が重い。だが大臣に「了解」して欲しいのは結論(この場合「放送法の解釈は、1つの番組だけでNGと判断しなくてもよい。解釈を変える必要は無い」)のみ。

 つまり礒崎氏がうるさく言ってきたが、上手にいなしたい、放送法の解釈変更なんかしたくないし、する必要が無い、そのことを高市氏にスムーズに「了解」してほしいということだ。

 そこで経緯の説明は曖昧にしつつ、結論だけ大臣に抑えてもらえればOKだと考えてレクなどを行う。

 この点で官僚は「しっかり説明したつもり」である。大臣は後で「聞いていない」というかもしれないが、説明した証拠は文書でバッチリ残しておいた――実態はそんなところだったのではないか。

変なヤクザ

 こうした文書をなぜ霞が関では作るのか。旧自治省(現在の総務省)出身で、総務相もつとめた片山善博氏が月刊誌「世界」5月号の寄稿で紹介している。「ある程度の影響力を持つ政治家から横槍が入った時に、この文書は作成されている」。その理由は、横槍を「断った時に役所や役人に嫌がらせなどのしっぺ返しをされることが予想される」ためで、その際に「上層部も含めて役所内で情報を共有し、善後策を相談しておく必要がある」からだ。今回の場合、横槍を入れたのはもちろん礒崎氏である。

 礒崎氏のような政治家が「役所に対して凄んだり脅したりするのは、自分たちの思惑を役所において実現させるところに狙いがある」。背景にあるのは「都合の悪いことは役人に押しつけ、自分たちは後ろに隠れようとする」という思惑。特に今回の「放送法の解釈変更の強要などはその典型例と思う」との見立てだ。

 礒崎氏の「横槍」はたいそう、総務省の官僚たちにとっては不快なものだったに違いない。文書によれば、総務省出身の山田真貴子総理秘書官(当時)は「変なヤクザに絡まれたって話ではないか」とまで発言しており、礒崎氏の言動に否定的だった。

 よく指摘されるように、安倍政権下では「官邸主導」が進んだといわれる。選挙で選ばれた政治家が官僚の上に立つこと自体は問題ではない。しかし一方で、何でもかんでも横槍を入れていいわけがない。ましてや特定の民放番組が気に入らないといったことから、法の解釈を変えろと言われれば「絡まれた」と官僚側が感じても不思議はない。

 礒崎氏の言動で迷惑を受けるという点では、官僚も総務相としての高市氏も同じだったはずなのだが、一方で今回、「捏造」と主張されたこともまた官僚たちには不快だったのかもしれない。今回、総務省が普通なら公にしない行政文書をあえて公表し、調査結果まで発表した背景にも、「官邸主導」に対する強い不満があったように思えてならない。

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