官僚の不満が政治を動かす 「総務省捏造文書」問題で読み解く“本当の狙い”
「捏造」か、否かが大きな注目を集めた、高市早苗経済安全保障大臣と立憲民主党・小西洋之参議院議員との「対決」。
小西氏の「サル発言」などの失点も重なり、とりあえず騒動は一区切りとなった感がある。
だが、なぜ今ごろになって何年も前の話が蒸し返されたのか。
文書で書かれていたのは2014~2015年の放送法の解釈に関する総務省内の動きである。
これに関しては、さまざまな説がありいまだに真相は不明であるが、永田町、霞が関界隈で囁かれているのは、「ターゲットは高市氏ではなかった」という見立てなのだという。長年、霞が関、永田町で取材してきたジャーナリスト水沢薫氏による解説。
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今回の騒動について、知人の官僚複数が同じような見立てをしていた。
昔の文書が持ち出された背景には当時、「官邸主導」を振りかざした礒崎陽輔首相補佐官(前参議院議員)を、大分県知事選(4月9日投開票)に絡み「潰す」狙いがあった、というのだ。
そこから透けて見えるのは作為・不作為を問わず見え隠れする官僚の存在で、「官僚の不満が政治を動かす」構図である。
「官僚の不満」について説明する前に、直近の地方選について触れておこう。
今回の大分県知事選は、広瀬勝貞前知事の不出馬表明を受け、当初は複数の候補者が乱立する様相だった。結局は前参議院議員の安達澄氏と、元大分市長で経済産業省出身の佐藤樹一郎氏の一騎打ちとなり、佐藤氏が制した。安達氏は2019年の参議院議員選挙で、大分選挙区に野党統一候補として出馬、優勢を予想された自民党の礒崎氏を接戦の末、破って当選。しかし今回、参議院議員の職を辞して県知事選に挑戦していた。
これで佐藤氏が敗れれば、自民党側は連敗となったわけだが、今回は何とか一矢報いた形になる。
礒崎氏は大分県出身の元総務省官僚。浪人中の礒崎氏が知事選に参戦して、再び接戦となることを避けたいと安達陣営が考えても不思議ではない。文書が国会で取りざたされた時点では、すでに礒崎氏の出馬の可能性は低かっただろうが、たとえ県知事選には出馬しなくても、礒崎氏の評判が下がることは野党にとっては望ましいこと
言うまでもなく、行政文書を告発した小西洋之参議院議員は、立憲民主党所属。そして彼もまた総務省出身の元官僚。
総務官僚の中に、かつての礒崎氏の振る舞いに強い不満を感じている者たちがいて、「礒崎潰し」を狙い、元同僚の小西氏に文書を流した可能性があるのでは、というのが現役官僚の「推測」である。
なお、この「捏造文書問題」は、奈良県知事選にも影響している。自民党県連会長の高市氏が推したのは、自身が総務相時代に大臣秘書官を務めた平木省氏だった。だが、現職で五期目を目指した荒井正吾氏の出馬を抑えきれず保守分裂選挙となり、結局は日本維新の会公認の新人、山下真氏が「漁夫の利」で当選を果たした。「奈良府民」と呼ばれる、大阪府へ通勤・通学する住民が一定数ある奈良県で維新が勢力を伸ばすのは自然な流れではあるが、一連の騒動が高市氏サイドにとってプラスには働かなかったのは事実だろう。
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