本当の旬はいつ? 春の味覚「初ガツオ」が何ヵ月もスーパーの店頭に並ぶ理由とは

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 初日の出や初詣といった新年の風物詩のほか、スポーツの初勝利、初優勝といったシーンなど、「初」を冠する言葉は喜ばしい出来事を表すことが多い。魚で言うと、東京・豊洲市場(江東区)の新春恒例の「初競り」では、1番マグロに注目が集まり、夏場には秋の味覚「初サンマ」がお目見えし、ともに超高値のご祝儀が付く。一方で、春先に出回る「初ガツオ」については数ヵ月の間、ずっとそう呼ばれ続けている。その理由とは――。(川本大吾/時事通信水産部長)

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<目には青葉 山ほととぎす 初鰹>

 松尾芭蕉とも親交があった江戸時代の俳人・山口素堂の有名な句は、初ガツオのシーズンによく引用される。「『目には青葉』の初ガツオの季節がやってきた!」などと言われるが、青葉とほととぎすは、ともに春ではなく「夏」の季語である。

 それは現在の5月頃のイメージだとされ、花が咲き乱れ、東京で桜が満開となる卒業・入学シーズンの「春」を詠んだ句ではなさそうだ。いずれにせよ、この句があまりにも有名なためか、「新サンマ」のように「新ガツオ」と呼ばれることはほとんどなく、各地で春の数ヵ月間、「初ガツオ」が振る舞われるのが例年のパターンだ。
 
 都内の鮮魚専門店のバイヤーは、「だいたい3月から4月にかけて、初ガツオとうたって旬の生カツオの節(身を4分の1にカットしたもの)などを販売している」という。

「春」の後に「初」?

 こうした売り込みの時期は店によって若干異なるようで、大手スーパーで40年にわたって水産バイヤーを務めた、ある水産アドバイザーはこう話す。

「季節ごとに販売計画を立てる中で、首都圏などの店舗では2月4日頃の立春から4月下旬までを春物の売り込み期間とし、“春ガツオ”と銘打って九州産などのカツオを販売。その後、ゴールデンウィークあたりに1週間ほど、チラシや売り場に設置するポップなどで“初ガツオ”を売り込んでいた」

「春」より後に「初」が来るのも妙な感じだが、「やはり初物や新商品という言葉を使用するのはせいぜい1週間程度なので、そうした配慮から“目には青葉”の季節は、春よりも後になってしまっていた」(水産アドバイザー)と打ち明ける。

 産地偽装のように、商品の優良誤認を誘発するものではないが、「初ガツオ」という言葉の使い方が曖昧で、フワッとしているため、小売サイドでもそれぞれ工夫しながら、売り込んでいる姿勢がうかがえる。

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