アメリカ人の労働観に異変が起きている 景気後退でも労働力不足が続いているのはなぜか
なぜ労働力不足が続くのか
このように、米国経済が急速に活力を失いつつあるのにもかかわらず、景気の下押し効果をもたらすFRBのさらなる利上げが想定されている。
3月の失業率が2月の3.6%から3.5%に低下するなど、雇用市場の過熱状態が続いており、労働力不足に起因するインフレが続いているからだ。
米国経済は減速傾向が強まっているのになぜ労働力不足が続いているのだろうか。
米国の労働参加率(15歳から64歳の人口に占める労働力人口)の低下が指摘されることが多いが、それ以上に注目され始めているのは自発的に労働時間を減らす動きだ。
ワシントン大学の研究チームが1月中旬に「25~39歳の男性が自発的に労働時間を年16時間減少させた」との調査結果を公表した。学歴が低い男性を中心に仕事への意欲が低く最低限の仕事しかこなさない、いわゆる「静かな退職」が話題となったが、高学歴で勤勉な高給取り(年収10万ドル以上)の男性も仕事との関係を見直すようになってきている(2月28日付BUSINESS INSIDER)。
労働時間の短縮は米国人全体に波及していることがわかってきている。
エイブラハム元労働統計局長がレンデル・メリーランド大学教授らとともに3月末に発表した論文で「米国人の就労時間はこの3年で1人当たり週30分以上減少した」ことを明らかにした。「ちりも積もれば山となる」ではないが、就労時間のトータルの減少量は240万人分の雇用に相当する。
減少分のうち新型コロナの後遺症などによるものは10%程度にとどまっていることから、エイブラハム氏らは「ワーク・ライフ・バランスを考え直した米国人が多いことが一因なのではないか」とみている。スタンフォード大学のホクスビー教授は「コロナ禍でショックを受けた米国人は仕事に対して欧州的なアプローチをとるようになったのかもしれない」と解釈している(4月6日付ブル-ムバーグ)。
労働力不足の原因は、これまで先進国の中でワーカホリック(仕事中毒)の部類に属していた米国人がワーク・ライフ・バランスに目覚めたことにあるというわけだ。
たしかにワーク・ライフ・バランスは大事だが、そのせいで米国経済が苦境に陥ってしまうのだとすれば、これほど皮肉な話はないのではないだろうか。
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