「マスターズ」が高視聴率を記録も…反リブゴルフの余波で生まれた憶測や深読みの数々

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「ゴルフというゲームを愛しているから」

 今回のマスターズ報道において、深読みしすぎ、誇張しすぎのトーンは、米欧メディアのあちらこちらから感じられた。

 USAトゥデイ紙のウエブサイトには、「サンキュー、ジョン・ラーム」という見出しで、「リブゴルフ選手であるケプカの優勝を食い止め、マスターズ・ヒストリーに汚点を残すことを阻止してくれたラームにお礼を言いたい」という内容の記事が掲載されていた。

 しかし、ケプカはリブゴルフのために、ラームはPGAツアーのために戦っていたのかと言えば、まったくそんなことはない。

 例えば、優勝争いには絡みきれなかったものの一時は5位まで浮上して日本のファンを大いに沸かせた松山英樹(31)は、かつてリブゴルフから高額の移籍料をオファーされたもののそれを拒否してPGAツアーに残ったと言われている。しかし、プレー中の彼の頭の中に、リブゴルフとのこれまでの経緯、あるいはリブゴルフとPGAツアーの対立に関する事柄が渦巻いていたはずはない。松山はマスターズ2勝目を挙げることだけを考えていたはずだ。ケプカも同じく、故障続きでスランプに陥った自身が再び優勝戦線に絡めるところまで復活できるかどうかに全神経を集中させていたに違いない。

 そしてラームは「僕がゴルフをする理由は、ゴルフというゲームを愛しているからだ。世界のベストプレーヤーを相手に戦い、そして勝ちたいからだ。ゴルフをしているとき僕が考えるのは、ゴルフのヒストリーとレガシーだけだ」と述べた。

 さらに、母国スペインの英雄であるセベ・バレステロス(1957~2011)を尊敬し敬愛する彼は、「セベのように強くなりたい」「セベのように勝ちたい」と語る。

 その一心で戦い抜き、グリーンジャケットを羽織ったラームに我々がお礼を言うとき、そこにツアー間の対立や確執の出る幕はない。

 素晴らしいゴルフを披露し、世界中のゴルフファンをエキサイトさせてくれたこと、ゴルフの素晴らしさをあらためて伝えてくれたことに、「サンキュー、ジョン・ラーム」と私は言いたい。

舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。

デイリー新潮編集部

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