そごう・西武の売却に反対する「おじさん社員とOB」の主張が共感を呼ばない理由
百貨店の西武やそごうを運営する「そごう・西武」の株式譲渡を巡り、そごう・西武の労働組合による親会社のセブン&アイ・ホールディングス(以下、セブン)への抵抗が、今年に入って過激化している。アメリカの投資ファンドに売りたいセブンに対し、そごう・西武の労働組合らが猛反発しているのだ。当初こそ従業員らに同情の声も上がっていたが、今ではなぜかそれも少なくなって……。
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そもそもコンビニのセブンが、なぜ西武やそごうといったデパートの親会社なのか、不思議に思う方もいるかもしれない。そごうは2000年、バブル時代の積極出店が裏目に出て経営破綻。その際、西武百貨店が経営統合を視野に再建に乗り出すが、同社も次第に経営が悪化し、05年にセブンが両社を傘下に収めた。09年に西武百貨店とそごうは合併し、店舗屋号は「西武百貨店」から「西武」に変更されている。
その後17年がたち、セブンが経営が上向かないそごう・西武の株式譲渡の交渉を始めたのは昨年1月頃のことだった。11月には、2500億円を軸に買収額を算出するとした米国の投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループ(以下、フォートレス)を譲渡先に決定し、今年3月までに完了すると発表した。
ところが、そごう・西武の労組は、雇用の維持と事業の継続を求めて反対キャンペーンを展開。株式譲渡の契約が決まる前は、セブン側に労組との事前協議を求めていたが、株式譲渡の契約発表後には、次々に法的措置を講じた。今年2月27日、そごう・西武の労組OBと現職社員の2人が原告となり、セブンに対しフォートレスへの株式譲渡を差し止める仮処分を東京地裁に申し立て、3月30日には、セブンの取締役14人全員にそごう・西武の売却で1300億円の損害が生じるからそれを会社に対して賠償しろと請求したのだ。大手百貨店の中堅幹部は言う。
「もともと労組は事前協議を求めていましたが、企業のM&Aの話を事前に従業員側と話し合うこと自体がインサイダー情報の問題もあり難しいのではと思っていました。親会社のセブンは上場企業ですからね。それでも、労組側が雇用維持を希望するのは当然で、一定の同情がありました。ただ、その後の要求やアクションを見ていると、やり過ぎというか、どんどん過激になっていて、傍から見ると引いてしまっているというのが現状です。特に、セブンの取締役14人への提訴請求では、労組側は、そごう・西武の保有する不動産だけで3857億円の価値があるので、2500億円を軸にフォートレスに売却すると、およそ1300億円の損害が生じる。つまりセブンの経営陣は善管注意義務(善良な管理者の注意義務)を怠っていると主張しました。でもね、百貨店が入っている不動産を売却してしまったら、百貨店の経営はできなくなるわけですよ。本末転倒と言っていい。この辺りから、そごう・西武の労働組合に対する世間の目は変わってきたように思います」
結局、東京地裁は仮処分の申立てを却下した。
労組側に不信の声
すると4月5日、労組側はこの決定を不服として即時抗告に打って出た。この労組側の動きに世間の目は厳しい。ネットに投稿された意見の一部を引用する(改行は省略し、句読点を補足)。
《労組側に無茶があるような。/会社の不採算部門の売却なんてよくあることだし、業績も実際ずっと悪いわけだし、元々拾って貰ったセブン側に感謝こそすれ足を引っ張るのはちょっと。/自分達の保身だけしか考えていないような。》
《労組は、外資に飲み込まれて自分たちがキツくなるのが嫌なんでしょう。/事実、保険業界などは相当きつそうだからね。/しかし、外資のもとでは成果をあげれば待遇はよくなるはず。/頑張りたくないが待遇は守りたい、では、会社がもたないのでは。/労組側は給与や人員の削減を飲むのならば売却に反対も理解できるのですが。》
《で、売却が回避されたとして/どうやって経営建て直しするのか/そごう、西武ともに/どんどん閉店しても経営改善には届かない/そうなれば会社が生き残るためには/横浜そごうや西武池袋/あとはそごう・西武ともに/せいぜい1店舗ずつくらい残して/他は閉店せざるを得ないだろうし/そうなれば従業員解雇の話も出てくる/売却差し止めって言ってる従業員達は/自分が人員整理されるかもしれない/そこまでの覚悟があるのかどうか》
「Yahoo!ニュースの書き込み欄には、労組側に対する不信の声があふれました。もちろんこの意見が世論と同じとは思いませんが、批判的な声が非常に多いことは間違いないと思います。この問題の本質はそごう・西武の売却問題ではありません。百貨店部門が同業他社と比べても経営危機の水準にまで追い詰められたことなのです」
西武とそごうがセブン傘下に入って既に18年も経つ。なぜ経営は上向かなかったのだろう。
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