春ドラマの異色作「日本統一 関東編」 反社追放の時代になぜヤクザがドラマになるのか

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 間もなく春ドラマがスタートする。その中で一番の異色作は、日本テレビが4月13日から放送する「日本統一 関東編」(木曜24時59分)に違いない。2013年8月から今年1月までに計55作(正編)がリリースされているヤクザVシネマの連ドラ版。「反社追放」の時代にどうしてヤクザがドラマになるのか。

ヤクザVシネマのドラマ化

「日本統一」の主演は本宮泰風(51)が演じる氷室蓮司(51)と山口祥行(51)が扮する田村悠人(51)。2人とも神戸市に本部を置く日本最大のヤクザ組織「侠和会」の大幹部だ。

 氷室は組織ナンバー2の若頭、田村はそれに次ぐ立場の本部長を務めている。2人の上には小沢仁志(60)演じる組長・川谷雄一役がいる。3人はヤクザ界の日本統一を目指している。

 ヤクザVシネマには固定ファンがいるものの、その人数は限られているため、大ヒットには結び付きにくい。知名度十分の本宮、山口、小沢が登場しようが、それは変わらない。そのうえ、「反社追放」の世論がすっかり定着したこともあり、テレビドラマ化なんてあり得ないはずだった。

 ところが、「日本統一」は規格外の作品なのである。ヤクザVシネマを最も毛嫌いしがちな若者や女性も飛びついている。正編シリーズ55作のほか、若手ヤクザたちの日常を描くスピンオフ作品までつくられている。

 当初はレンタルDVDで観る人も多かったが、今では時代の流れもあって、Netflixやアマゾンプライム、フジテレビ系のFODプレミアムなどの動画配信サービスで観られている。ほとんどの動画配信サービスで流され、もちろん日本テレビ系のHuluも配信中。各社の売り物作品の1つになっているのだ。

 なぜ、若者や女性にも人気となったのか。「顔面凶器」とも呼ばれる小沢の顔は怖いものの、本宮と山口はイケメンということもあるだろう。だが、それより大きかったのが、本宮、山口が演じる氷室と田村が、現代のヒーローに仕上げられているから。2人は正義の味方なのである。

ヤクザものなのにヒーロー作品

 ヤクザが主人公なのに“ヒーローで正義の味方”と書くと、腑に落ちない向きも多いだろう。だが、実際にそう。まず、氷室と田村がヤクザ界の日本統一を目指す理由とは、それによって抗争を一掃し、一般市民に迷惑を掛けないためなのである。ヤクザから死者が出ないことも目指している。

 また、氷室と田村は市民を食い物にする悪いヤクザを決して許さない。手形パクリ、闇金融、土地の詐取、暴力などで市民を苦しめるヤクザを見つけると、ボコボコにしてしまう。ちなみに2人の武闘力はピカイチだ。

 助けた市民からの報酬を自分たちから求めることはない。氷室は謝礼を渡されそうになると、いつも「いいんですよ」と笑顔で固辞する。カタギ(市民)を守ることが自分たちの使命だと考えている。下心もない。

 侠和会はクスリ厳禁で、賭場も持たず、性ビジネスもやらない。観ていると「一体、どうやって運営費を賄っているのか?」とクビを捻ることもあるが、だからヒーローものなのである。架空の美しいヤクザ界を描いているファンタジー作品とも言える。

 作風はヤクザ社会の狡さやエゴを描いた映画「仁義なき戦い」(1973~74年)とは程遠い。漫画の実写化映画で、不良の主人公たちが悪い不良を倒す「ビー・バップ・ハイスクール」シリーズ(1985~88年)や、不良がタイムリープで仲間を救おうとする「東京リベンジャーズ」シリーズ(2021~22年)に近い。

「日本統一」の氷室たちはこれまでに大阪、岐阜、名古屋、四国、東北、中部、九州、広島、沖縄、北陸などを傘下に収めた。氷室は頭が切れるし、腕っ節も抜群に強い。田村は頭脳派ではないが、怖い物なしで、やはりケンカがメチャクチャ強い。

 2人によるアクションシーンは迫力満点だ。これも観る側を惹き付けている。並みの俳優とはパンチやキックの速さがまるで違う。

 それも納得である。氷室役の本宮は高校時代、アマチュアボクシング選手で、五輪出場も夢ではなかった。現在も総合格闘技を続けており、「芸能界で最強」とも呼ばれている。

 田村役の山口もジャパン・アクション・クラブ(JAC)出身で運動神経抜群。さらに演じている田村には言動に凄みもある。口癖はピストルを手にしながらの「殺すぞ!」。脅しではなく、本当に殺しちゃうこともあるから、悪いヤクザたちは震え上がる。

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