沖縄を舞台に人々の偏見と無知を問う「フェンス」 米兵による性暴力を裁けない理不尽なリアル
沖縄を舞台に描くドラマは少ない。あっても朝ドラがふわっとお届けする「奇麗な海というビジュアルイメージの利用と、定番の明るく元気でへこたれないヒロイン」で、舞台は東京や大阪へ必ず移る。米軍基地で回る経済の功罪にはほぼ触れず。沖縄の憂いを描いたのは池上永一原作の「テンペスト」くらいだが、琉球王国時代の話だし。美しく朗らかな沖縄が定着しているが、行けばわかる。本島の真ん中の絶望的に広大な土地がほぼフェンスで囲まれていることが。基地反対の抗議活動を根気強く続けている人がいることも、基地のおかげで生活できるという人がいることも。上間陽子の本を読めばわかる。沖縄の女性の絶望と諦観が。
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数十年以上すっぽり抜けてきた視点で描いているのが「フェンス」である。私の好きな「女WOWOWドラマ」(地位や権力、組織の論理では動かない人々の心情描写が主軸)でもある。
主人公は小松綺絵。キャバクラの裏事情をネタにした連載記事をもつライターだ。負けん気と度胸、冷静な判断力、誰にも頼らずに生きてきた矜持のある女で、演じる松岡茉優はしっくりハマる。編集長(光石研)から依頼されたのは、沖縄のひとりの女性が米兵による性暴力を訴えた事件の取材だった。連続暴行犯の可能性が高いのに、地元警察の動きは鈍く、きな臭さもあるという。真相を突きとめるべく綺絵は沖縄へ向かう。
被害を訴えたのは大嶺桜(宮本エリアナ)。沖縄生まれ沖縄育ちのミックスで、カフェバー兼子供食堂を経営。米軍基地反対派の祖母(吉田妙子)に育てられた桜は身も心も沖縄人だが、ブラックミックスの外見で差別されたこともある。綺絵はキャバ嬢時代の客である、警察官の伊佐(青木崇高)から情報を入手。桜に近づき、本当の被害者は女子高生の仲本琉那(比嘉奈菜子)だったと知る。
事実も犯人も突きとめたが、大きな壁が。米兵は罪を犯しても米軍基地のフェンスの中に逃げれば、警察どころか日本政府も手出しできず。日本国憲法よりも日米地位協定が上という理不尽が日常、それが沖縄。
実は綺絵も沖縄育ち。父はアジア系の米兵で行方知れず。母(中村優子)は米兵の子を産んだことでさげすまれ、沖縄を捨てた過去がある。
深い憤りを筆に託し、真実を原稿にした綺絵だったが、記事は編集部でまるっと差し替えられた。レイプ事件は米軍基地反対派のでっちあげという論調へ。綺絵と桜(あ、伊佐もか)の闘いが、これから始まる。
これね、闘いと書いたけど、米兵とか米軍が敵ではないの。偏見と無知が問題なの。米兵がたむろする店へ行く女子をアメジョと呼んでさげすむ人、米兵に恋をした女性を貶める人、避妊しないくせに「子は宝」とか言っちゃう男、理不尽を飲みこむことに慣れた人、外見で分類する人、無意識の父権社会に疑問を抱かない人、根が深いと傍観してしまう人、全員に問いかけるものがある。「闘う」前に「問う」ドラマなのだ。社会派とひと言で片づけるのはやめた。問う作品を私はもっと観たい。