「中国軍が来たら投降する」台湾“最前線の島”のリアル 一方で民間の軍事セミナーが活況

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「ハッカー攻撃など日常茶飯事」

 参加者は主にSNSで募集し、これまでは週1回開催していたが、今は募集を始めると40人の定員がすぐ埋まる状態で、3月からは月20回に増やしたという。

「われわれの予想を上回る反応です。中国の潜在的脅威を感じる市民が増えたのでしょう。昨夏のペロシ米下院議長の来台後、すぐさま中国の威嚇的な軍事演習があった。あれから市民の意識が一変したと思います。寄付金も激増しました」

 会場を見渡すと、30~40代の参加者が多いように見えた。女性の参加者も少なくない。何さんが続ける。

「初めは男女半々でしたが、今は女性が微増傾向です。台湾の男性は全員に兵役義務があるため、元々ある程度の軍事知識を持っているのに対し、女性の方が不安が強いのでしょう。SNSやテレビなどからのフェイク情報も多い今、民間人にもそれらにだまされない知識が必要です。当然、中共側はわれわれの活動もチェックしている。SNSのコメントでの誹謗中傷、ハッカー攻撃など日常茶飯事です。でも自分の大切な人を守るための事業なのだから、何を怖がることがありますか?」

日経がスパイにだまされた?

 実際、情報戦はすでに始まっている。日本経済新聞は2月末から3月頭にかけて〈台湾、知られざる素顔〉と題した連載記事を出し、「台湾軍幹部の9割が退役後に中国に渡り、情報提供の見返りに金銭を得るといった腐敗がまん延している」などと報じた。台湾国防部は即座に事実無根だと反論し、外交部も日経新聞に抗議して訂正を求めた。実は、日経の取材を受けた元台湾軍幹部こそが中国のスパイだったとうわさされる。

 さらに3月中旬、一人の台湾軍兵士が金門の軍事基地から逃走し、中国側の海域まで泳いで渡るという事件が発生。台湾側では多額の借金を苦にして逃げた可能性があると報じられる一方、中国メディアは兵士が厦門で手厚い保護を受けていると報じるなど、台湾世論に揺さぶりをかけている。

 セミナーに参加していた20代後半の女性は、

「台湾で戦争が起こるはずがない? ウクライナでは実際に起こったじゃないですか。だから危機感を覚え、市街地で市民が攻撃を受けた時に何をすべきか、心の準備をしています。私はウェブデザイナーなので、インスタなどを通じて知識を拡散したい」

 と話す。

 60代の男性参加者は、

「もちろん戦争が好きな人はいませんけど、何かあった時のノウハウを知っておく意義はある」

 と語った。

アメリカより日本を信頼?

 日本では中台両岸の関係について、政治家や外交当局といった“表の顔”だけを見て捉えがちだが、市井の台湾人と話すと、両岸の利益を考える穏健派もいれば、黒熊學院に参加するような抗戦派もいる。不安を感じて資産を外国に移し始める人もいて、まさに十人十色だ。そういった多様な意見が存在することこそが、台湾に民主主義が根付いている証拠ではないだろうか。

 台湾で昨年行われた世論調査では、有事の際に助けてくれる国として、アメリカより日本のほうが信頼されているという結果も出た。台湾人が、隣国である日本との連帯を期待しているのは間違いない。ただ、日台の真の連帯のためには、玉虫色の台湾世情を少しでも深く理解する必要がある。コロナ禍の規制が解けた今、ぜひたくさんの日本人に台湾を訪れてもらい、台湾人とはどういう人々なのか、ということを実際に確かめていただきたい。

広橋賢蔵(ひろはしけんぞう)
台湾在住ライター。1965年生まれ。台湾観光案内ブログ「歩く台北」編集者。近著に「台湾の秘湯迷走旅」(共著、双葉文庫)など。新潮社フォーサイトにも執筆中。

週刊新潮 2023年4月6日号掲載

特集「『中国軍が来たら投稿する』!? 日本人が知らない『台湾有事』最前線で聞いた本音」より

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