「中国軍が来たら投降する」台湾“最前線の島”のリアル 一方で民間の軍事セミナーが活況
「戦争なんて愚かな選択」
欧米には、台湾有事で中国が真っ先に占領するのは金門島だ、とのシミュレーションを示す安全保障の専門家もいる。陳議員にそのことを問うと、
「今の時代、戦争になってもミサイルは私たち金門島民の頭上をかすめて台湾本島まで届きます。金門と厦門の間に橋が架かったとしても、人民解放軍がそこを渡ってくるなんてことはないでしょう。戦闘機で台湾本土に向かったほうが早く着くのですから」
と一笑に付された。実際、中国軍による金門島への砲撃は58年が最後で、当時は島に約10万人いた台湾軍兵士も冷戦終結後に激減し、現在は約3千人が駐留するのみだ。
また、金門島は主たる水源である地下水が枯渇しがちで、2018年以降は海底パイプラインを通じて中国から水資源の供給を受けている。陳議員が続ける。
「金門人は元々、中国大陸にルーツがあり、対岸とは長い交流の歴史があります。丸腰でも何も怖くない。戦争なんて愚かな選択です。それより中国から観光客を誘致し、島の経済を潤わせたい。水だけでなくガスや電気などのインフラも、中国側が整備してくれるというなら享受するまでです」
中国への不動産投資で資産形成
年が明けて今年1月、もう一つの要塞島である馬祖列島に向かった。福建省連江県に属し、対岸の中国・福州市から直線距離で約60キロだ。
昨年11月の選挙で連江県長に当選した王忠銘氏(65)に話を聞いた。
「馬祖の人口は主要5島を合わせても約1万4千人。金門の10分の1で、これといった産業もない。生き残るためには、海の生態系や自然環境を保護して、台湾本島からエコツーリングの観光客を呼び込みたいと思っています」
同じ国境の島でも、馬祖は中国人にとって魅力的な商業施設が少ないせいか、経済面で大陸からの観光客には依存していないようだ。むしろ台湾本島との関係強化に期待しているという。ただ、一般の島民に話を聞くと、やはり中国の経済力は無視できない存在だった。
宿泊した宿の主人の弟は、福州での不動産投資でかなりの資産を築いたという。
「中国で購入した物件は、数年で価値が数倍にもなる。売却すれば余裕で老後の資金になります。台北にも不動産を持っていて、いい物件がないか、台湾も中国も常にチェックしています。日本の不動産ですか? 1~2軒くらい購入してもいいかなと考えたこともあるけど、日本は経済成長も止まって伸び代がないでしょう。よほど条件のいい物件でない限り、要らないかな」
台湾と日本が一心同体であるかのように語る日本の保守派にとっては、耳をふさぎたくなるかもしれない。だが、これもれっきとした台湾人の本音である。中国軍に対する警戒心は、馬祖でも強くない。王県長は筆者にこう語った。
「中国からの威嚇は全く気になりません。偵察用ドローンが飛んでくるくらいは想定内です。対岸との交流はここ20年、かつてないほど密接です。コロナ禍で一時的に遮られましたが、コロナが終われば、今後も変わりなく続くでしょう」
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