全国初、徳島県警捜査1課に新設された「検視隊」 リーゼント刑事が解説する“伝統的な事情”
犯罪捜査の基本が「検視」にはある
「検視隊発足の最大の目的は誤検視を出さない事です。特に徳島県警は伝統的に徹底的な検視を行ってきました。死体を前にどこを見るか。まずは現場です。家の中なら窓を割られているとか、足跡など侵入痕がないかを見る。そして部屋の中を見て争った、荒らされた形跡はないかを確認する。次にご遺体です。頭から足の指先まで見ます。死体の硬直の度合い、死後経過時間、外傷の有無。そして亡くなった方の生前の行動。お金や仕事など、トラブルはなかったか、関係先を聞きこんだり必要な資料を集めたり、徹底的に調べるんです。そうなると、検視は1日で終わらず、何日もかかる。ここまで調べるのは全国でも徳島県警だけではないでしょうか」
とは、徳島県警OBで犯罪評論家の「リーゼント刑事」こと秋山博康氏(62)。42年間の警察官人生のうち、捜査1課を中心に、県下最大の徳島東署(現・徳島中央署)刑事1課長などを務めあげた。
「例えば、遺書があったとします。鉛筆で『さようなら』と書いてあった。当然、筆跡鑑定はします。一致すれば遺書もあるし自殺だろうとなるでしょう。しかし徳島県警は違います。書いた紙はどこにあるか、書いた鉛筆 はHBか2Bか、そしてそれは近くにあるのか、第三者が代筆して紙を置いていった可能性を徹底的に調べるのです。私は昭和58年4月に刑事になりましたが、着任初日の任務が水死体の検視でした。ロープでコンクリートを括り付けた男性だったのですが、状況から殺人の線を疑ったものの、ポケットに会った免許証から淡路島に住んでいた本人の自宅に向かい、身辺捜査を行いました。遺書もあり、お金に困って将来を悲観しての自殺とわかったのです。初仕事ですが、自宅に帰ったのは2日後の夕方でしたね」
現場を見る、遺体を見る、遺書など関連資料から本人の生前の生活を再現する。犯罪捜査の基本が検視には全て詰まっているという。
「私も所轄刑事課の係長時代、年間300体の変死体を扱い、その全てに臨場しました。合わせて他の事件捜査もあるので、とにかく大変でした。検視隊のような専門部隊を創設した所轄の負担を少なく、それでいて誤検視を徹底的に防ぐ。後輩のみんなには、是非とも頑張ってもらいたいですね」