従業員の幸福度が高まれば企業は成長する――前野隆司(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授)【佐藤優の頂上対決】

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制度疲労が限界に

前野 もっとも企業が創造性を重視し始めたのは望ましいことです。そこからさらに進んで、すべての企業が社員の幸福を目的とする「ウェルビーイング企業」になっていくことが必要でしょう。ただ、それを日本の社会制度が阻んでいる。

佐藤 どんな制度が問題だと考えておられますか。

前野 一つは縦割り組織ですね。官僚と話をしていると、みんな日本をよくしたいと言いますが、「では、その縦割り行政を何とかしてください」と言うと、「そんなことを始めたら一生かかります」という返事が来る。制度ががっちり完成されていて、もう壊しようがなくなっているんですね。

佐藤 官僚たちは、これからの社会をデザインするエリートなんですけどもね。

前野 大学も同じです。文系理系が交わらない。例えば心理学と工学です。これから伸びていく分野にもかかわらず、交流がない。

佐藤 前野先生は、大学で機械工学を学ばれ、キヤノンでカメラモーターの開発を行った後、大学に戻ってロボット研究や脳の研究をされてきました。まさに心理学と工学をつなぐロールモデルです。

前野 私は工学の中でも「感性工学」に興味を持ち、研究してきたんですね。人間の感性を科学的に分析し社会に役立てようという学問ですが、それが幸福学研究につながりましたし、慶應義塾大学大学院のSDM(システムデザイン・マネジメント研究科)に行くことにもなったんです。

佐藤 SDMの定員は何人ですか。

前野 修士課程は1学年77人で、専任教員は12人です。

佐藤 いい比率ですね。文理融合は私が教えている同志社大学も進めていて、生命医科学部にサイエンスコミュニケーターという副専攻を設置したり、学長直轄で全学部横断の新島塾というプログラムを作るお手伝いをしています。

前野 SDMは、学問が専門化、詳細化して全体の問題を解けなくなった現代において、理系と文系が協力して一緒に解決していこうと15年前に始まりました。その後、東京大学や早稲田大学など他大学でも文理融合が始まりましたが、なかなかうまくいっていないし、広がっていないですね。

佐藤 その原因はどこにあるとお考えですか。

前野 日本社会のもう一つの問題に、ルールが多すぎるということがあります。それが文理融合にも影響している。明文化されていないルールも含め、それらがどんどん蓄積して複雑になっています。

佐藤 たくさんの掟がある。

前野 20代はまずそれを覚えろという感じでしょう。だから新陳代謝が進まない。これは誰も悪くない。制度疲労が限界にきているのに、そのまま使っているから、変化の足かせになっているんです。だからウェルビーイング企業も増えていかない。

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