【名人戦第1局】渡辺明名人に先勝 藤井聡太六冠の「攻めるか、守るか」の判断について感じたこと

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健啖家の渡辺明名人

 それにしても、渡辺は対局中も実によく食べる。1日目の昼食は藤井と同じ握り寿司を注文したのだが、渡辺は「寿司増量、ワサビ抜き」として別の皿で何貫か追加している。

 2日目の昼食も、藤井は天ぷらうどん、渡辺は豪華な松花堂弁当。さらに、名人戦は2日目の午後5時に「軽食タイム」があり、藤井はおにぎりを2つを注文したが、渡辺はここでも天ぷらそばをしっかり食べていた。

 いつものように藤井は2日目の午後のおやつはドリンクだけだが、渡辺はスイーツもしっかり食べたようだ。驚くべき健啖家棋士である。

 加藤九段が現役時代、対局中に板チョコ2枚をバリバリ食べて相手を驚かせた逸話を思い出してしまう。もっとも、最近の棋士はずっと上品になっているようで、そういう姿もあまり見ない。

 飲料や食べ物を持参することは自由だが、愛妻弁当と水筒、好きなスイーツなどを持ってこられたら、有名棋士が注文することでの「売上アップ」を期待する地元の料亭や飲食店、菓子店などは愕然である。トップ棋士は様々に気を使っている。

第2局の会場は相性の良い静岡

 天才棋士・渡辺は20歳で竜王を獲得して以来、タイトルホルダーを堅持してきたが、藤井には三冠(棋聖、王将、棋王)も奪われている。死守している名人位まで奪われ無冠に落とされたくはない。

 第2局は名人挑戦者を決める順位戦A級リーグの最終日が行われた静岡市の「浮月桜」で4月27、28日に行われる。藤井六冠にとって静岡県は、棋聖戦、王位戦、竜王戦、王将戦の4つのタイトル戦をすべて勝ってきた相性のよい土地。しかも圧倒的な勝率を誇る先手番だ。

 渡辺は「少し間が空くので気を取り直して頑張りたい」と話していた。対戦成績こそ3勝17敗と大きく負けているが、内容の差は数字ほどないはず。不幸にして「藤井聡太に最も多くのタイトルを奪われた棋士」になってしまっているが、最強棋士として君臨していたことの証しである。

 今回の対局では先手を決める「振り駒」の結果、名人である渡辺が先手となった。その後は一局ごとに先手と後手を入れ替え、7番までもつれた場合は再度、振り駒を行う。

 注目の名勝負をもう一度、振り駒が行われるまで見たい。
(一部、敬称略)

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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