飲酒が原因で死亡するロシア兵が増加中 他の軍隊には理解不能な兵士と指揮官たちの心理状態
禁酒が世界の潮流
戦場を描いた映画でも、時代の移り変わりが反映されている。第二次世界大戦を描いた作品の場合、当時、世界屈指の輸送力を誇ったアメリカでさえ、陸軍や海兵隊の兵士が最前線で酒を呑む場面はほとんど描かれない。
一方、ベトナム戦争は酒が豊富だった。映画「プラトーン」(1986年)では、夜、兵士たちが最前線の兵舎でビールやウィスキーを浴びるように呑む場面が描かれた。輸送技術の発達で兵站が強化され、しかも、アメリカ兵の士気が低いことから“酒のサービス”に注力したことが原因だろう。
だが、1993年にソマリアで起きたモガディシュの戦闘を描いた映画「ブラックホークダウン」(2001年)では、最前線の兵舎で飲酒するシーンは見当たらない。特殊部隊の兵士は休息時間になるとテレビゲームに興じたりジムで身体を鍛えたりしている。
「いわゆる先進国の軍隊は、現在、禁酒だけでなく禁煙も重視しています。酒を呑みながら銃などの兵器を扱えば、事故が多発することは明らかです。かつてはタバコも“兵士の友”という時代がありましたが、今では運動能力を低下させるだけであり、百害あって一利なしという見解が主流です。また、戦場に酒瓶やタバコの吸い殻を残すと、敵軍に発見されるというデメリットもあります」(同・軍事ジャーナリスト)
ワグネルは禁酒
一方のロシア軍は、それこそ必死で酒を調達しているようだ。母国から輸送させているだけでなく、最前線ではウクライナの民家や商店からロシア兵が酒を略奪する光景も報道されている。
そもそもロシア社会ではアルコール依存症が蔓延している。「約37%の国民がアルコールに依存している」というアンケート調査もあるほどだ。
「ロシア軍が徴兵を行うと、かなりの割合でアルコール依存症の患者が入営することが考えられます。しかし、軍に患者を治療する余力はなく、そのまま最前線に送っているのではないでしょうか。彼らを兵士として働かせるには、アルコールの摂取を黙認するしかないと考える指揮官がいても不思議はないと思います」(同・軍事ジャーナリスト)
ウクライナ軍の反撃でロシア兵が逃げた後、放棄された陣地から大量の酒瓶と排せつ物が発見されたという報道も目立った。
「皮肉なことに、ロシアの傭兵ネットワーク『ワグネルグループ』の兵士募集要項には、『酒を呑んだりドラッグを使ったりした者は処刑する』と明記されています。ワグネルは刑務所でリクルート活動を行い、囚人兵を組織したという集団ですが、酒が軍律や戦闘効率に悪影響を与えることはよく分かっているのでしょう」(同・軍事ジャーナリスト)
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