野茂フィーバー前夜にドジャースファンを沸かせた「ミステリアスな怪童」 野茂との意外な共通点は?(小林信也)
永久欠番
イニング半ばで他の投手にマウンドを譲ったバレンズエラはニコリともせず、うなだれもせず、厚い胸板をぐっと反らし、斜め上をじっと見つめたままマウンドを降りた。そして、ファンたちの声に一切反応することなく、まるで何も聞こえないかのように、平然とベンチに消えた。
その姿に、衝撃を受けた。それまで見たどんな日本人投手も、打たれて降板すれば表情を曇らせる。申し訳なさそうにうなだれる。悔しさをにじませる。
だが、怪童バレンズエラは違った。どこまでも堂々として、不遜な印象を漂わせていた。そして後の野茂も、同じように不遜だった。それが怪童の怪童たるゆえんなのだろうか。
ストライキで短縮され、変則的なシーズンとなったこの年、13勝7敗のバレンズエラは、新人王とサイ・ヤング賞をダブル受賞した。ワールドシリーズではニューヨーク・ヤンキースと対決。バレンズエラは第3戦で勝利し、世界一にも貢献した。
怪童は90年限りでドジャースを退団するが、その後も5球団を渡り歩き、96年には35歳ながらサンディエゴ・パドレスで13勝を挙げる活躍も見せた。
今年2月、ドジャースはバレンズエラの背番号34を永久欠番にすると発表した。これまで、野球殿堂入りした選手だけを永久欠番として認めてきたが、バレンズエラがドジャースを離れて以来ずっと、誰ひとり34をつけた選手がいなかった事実もあり、初の決断となった。
WBC準決勝で最後まで日本を苦しめたメキシコの底力、怪童は第1回大会の投手コーチでもあった。
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