【インタビュー】“刑務所の先生”「吉本興業」元専務が言葉を失った「女性受刑者の不可解な嘘」

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注射痕を消したい

「大人になったら何になりたいのかも聞いてみて」と追加でお題を出すと、「大工さん!」「プロ野球の選手!」「歌手!」との答えが返ってきました。そしてある刑務所の授業では、実際、「プロ野球選手になった」という人もいて、「それはすごいなぁ、みんなで拍手!」と盛り上がりました。そして最後に、

「でも今、ここにおったらあかんけどなぁ」

 と付け加えると、笑い声が。「お笑い」を差し挟むことによって場の空気をほぐしていきながら、コミュニケーションをしていくのです。

 女子刑務所でも、こうしたコミュニケーションの講義をやったことがありますが、その時、今でも忘れられない不思議なことがありました。その時は、「100万円差し上げます。何に使いますか」という趣旨の質問を投げかけました。すると、「顔の整形手術をしたい」といった女性ならではの回答や、「両手の注射痕を消したい」というシリアスな答えも。そして最後に、メガネをかけた、高校生や専門学校生のような雰囲気の女性が、こう答えたのです。

嘘ですよ

「実は兄弟が7人いるのですが、みんなで東京ディズニーランドとディズニーシーに泊まりがけで行きたいです」

 私は、「それはいい記念になりますね」と締め、その場は終わりました。その後、刑務官の方と雑談する中で、「あのメガネの子、若いのに今どき7人兄弟って珍しいですね。何をしたんですか」と聞いたのです。そしたら、「嘘ですよ」と。「え、嘘? 兄弟の数が嘘なんですか?」と聞き直すと、「兄弟なんていませんよ」と。予想外すぎて、ポカンとしてしまいました。なんでそんな嘘をつくのかは、刑務官もわからないとのことでしたが、まさに、「嘘つきは泥棒の始まり」を地で行くようで、何とも言えない気持ちになりましたね。やはり、あらゆる犯罪の根源には、「嘘」があるのではないでしょうか。そうした「嘘」がまかり通ることで、結果的に社会全体が悪い方向に向かってしまう危険性もある。それは犯罪を起こす人たちだけの問題ではないな、とも感じています。

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