【インタビュー】“刑務所の先生”になった「吉本興業」元専務が、「ZARD」の名曲で爆笑を誘った理由 10年で100回通って目撃した“塀の中”の秘話

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合唱大会

 運動会のクライマックスは「玉入れ」でして、この競技にはボクも参加させてもらいました。この時だけ紅白に分かれて競ったのですが、ボクは紅組として参加。これが結構、入らないんですよ。受刑者の方の方がやはり上手なんです。結局、紅組は負けたんですが、一緒に戦ったメンバーに対して、最後にボクが“いらんこと”を言ってしまいました。

「また来年もがんばりましょうね!」

 来年までに娑婆に出る人もいるかもしれないのに……。この辺りの言葉選びがなかなか難しいというのも、塀の中の特徴かもしれません。

 刑務所は、精神衛生上も健康でなければならないという観点のもと、運動会以外にも、さまざまな行事が行われています。その中の一つ、「合唱大会」に、審査委員長として呼ばれたことがありました。しかも、女子刑務所での合唱大会。福島県にある「福島刑務所 福島刑務支所」という、東北で唯一の女子刑務所です。

負けないで

 審査委員長と言っても、審査員は私一人だけ。会場である講堂の壇上から見渡すと、約400人の受刑者がビシッと席に座っていました。当たり前ですが、全員化粧っけなしのすっぴんです。運動会と同じく、工場別に分かれての対抗歌合戦で、彼女たちは壇上に上がるのではなく、その場で立って歌うというスタイルでした。第一工場から合唱はスタート。中島みゆきの「宙船」を熱唱する姿は、感動的ですらありました。

 第四工場の面々が選んだのは、ZARDの「負けないで」。この日のために、かなりの時間、練習してきたのでしょう。コーラスもバッチリ合っていたので、歌が終わった後の寸評で私は、「歌詞の通り、最後まで諦めず頑張ろうという思いには感動しました」と誉めた後、

「いま『負けないで』を歌いましたけど、みんな、負けたからここにおるねんで!」

 と、付け加えたところ、みんな、爆笑でした。ちなみに女子刑務所では、髪型は自由なんです。と言うこともあってか、彼女たちは化粧っけがないこと以外、渋谷や原宿や梅田ですれ違うような、どこにでもいる女性に見えました。どんな事情があってここにきているのかはわかりませんが、2度とここに帰ってきてほしくないな、と心から思いましたし、そのために自分ができることをやろう、と考えましたね。(後編に続く)

デイリー新潮編集部

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