【インタビュー】“刑務所の先生”になった「吉本興業」元専務が、「ZARD」の名曲で爆笑を誘った理由 10年で100回通って目撃した“塀の中”の秘話

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ギャラはお支払いできませんが

 そんな中で、たまたま友人が、秋田刑務所に知り合いがいるということで、“行ってみませんか”と誘われたのです。塀の中に入ったことはこれまでに一度もありませんでしたから、二つ返事でOKしました。作業場などを案内してもらったんですが、廊下をきびきびとした動きで行進する受刑者の集団とすれ違う時は、やはりドキドキでしたね。

 その後、秋田刑務所から、「ギャラはお支払いできませんが、慰問をお願いできませんか」と依頼が来まして、もちろん、喜んで引き受けさせていただきました。当時秋田に住んでいた芸人「ちぇす」を帯同して刑務所に伺い、そこで私も、受刑者に向かってお話をさせてもらった。そのことを聞いた山形刑務所の刑務官の方から、今度は「釈放者向けの研修ができないでしょうか」という依頼が来たのです。

 正式には、「釈放前指導導入教育」といい、一見難しそうだなと思ったのですが、その目的は二つということでした。一つは、「出所社が2度と刑務所に戻らないこと」。もう一つが、「出所者が再犯で被害者を作らないこと」。これを聞いて興味を持ち、引き受けることにしたのです。ボクが吉本時代に力を注いできたのは、マスコミや、芸人たちとのコミュニケーションをいかに円滑にするかということ。いわゆる、コミュ力をいかに上げるかです。出所前の受刑者たちにコミュ二ケーションについて伝えられれば、出所者が一般社会にうまく溶け込むことができて、2つのミッション達成に貢献できるかもしれない、と考えたわけです。

塀の中の運動会

 詳しい授業の内容については、後ほどお話しますが、ここでは、刑務所の中でボクが体験したことについていくつかご紹介したいと思います。何しろ、“塀の中”の常識は一般社会とは大きく違っていて、ボクも驚かされることばかりでした。

 まず、2016年のこと。ボクが定期的に授業を行っている山形刑務所で、受刑者の健康維持のためのイベントとして、運動会が行われたのですが、そこに来賓として呼ばれたのです。一般的に運動会は、紅白に分かれて競いますが、刑務所の運動会の場合は、作業を行う工場ごとに分かれていて、この時は全22チーム。みなさん、普段は運動する時間はあるものの、大声を出すことは許されていないんです。でもこの日だけがそれが許されているから、準備体操が終わると、「第三工場、行くぞ!」といった号令が、そこかしこから響いていました。

 驚いたのが、高齢者も含めて、みなさん足も速いし、体の動きがきびきびとしていて、いかにも健康そのものといった感じだったこと。刑務所による徹底的な健康管理の賜物なのだろうと感心しましたね。

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