「舞いあがれ!」の視聴率はなぜ低かったのか
観る側に考えさせるドラマは視聴率が伸びない
NHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」の全話平均の世帯視聴率は15.6%(個人8.9%)で、2010年度上期の「ゲゲゲの女房」以降、最低だった。もっとも、低かったことには理由がある。「らんまん」はアップするだろう。こちらにも理由がある。
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「舞いあがれ!」の世帯視聴率が低かった理由を解き明かしたいが、その前にドラマの質と視聴率は全く別次元のものであることを説明させていただきたい。
例えば脚本家の山田太一氏(88)が中流家庭の崩壊を描いたTBS「岸辺のアルバム」(1977年)は昭和のドラマの最高傑作と評されている。当時のドラマ各賞を独占した。だが、全15話の平均世帯視聴率は15.0%。紅白歌合戦が70%を超えていた時代だから、突出した数字とは言えない。第2話では1ケタの視聴率を記録した。
山田氏本人も「私は視聴率を取れる作家ではありませんよ」と苦笑まじりに言っていた。こうも付け加えた。「(作品内で)殺人事件など刺激的なことが起こるわけではありませんから」。最初から自分の書きたい作品を決めており、高視聴率を狙っていなかったのだ。
倉本聰(88)氏が北海道の炭鉱町出身の若者たちを繊細に描写した日本テレビ「昨日、悲別で」(1984年)もいまだ語り継がれている名作であるものの、全13話の平均世帯視聴率は9.9%に過ぎない。倉本氏とも何度か話したが、視聴率が話題になったことはない。
2人の作風は違うが、共通点がある。「メッセージ性がある」「観る側に考えさせる」。娯楽色が強い作品はまず書かない。すると視聴率は高くならない。
それは今の時代も変わらない。例えば坂元裕二氏(55)作で、離婚した男女の在り方や女性同士の友情を考えさせたフジテレビ「大豆田とわ子と三人の元夫」(2021年)は個人視聴率が4%前後で同世帯視聴率は6%強。低視聴率の部類に属した。
渡辺あや氏(53)作で、メディアの腐敗や人間の脆さを観る側に問い掛けたフジ「エルピス-希望、あるいは災い」(2022年)もやはり視聴率は低く、個人は4%前後、世帯は6%強だった。働くことの意味を考えさせたNHK「正直不動産」(同)も低視聴率。個人は2%強で世帯は6%前後。低視聴率だった。
高視聴率を取るドラマはTBS「半沢直樹」(2013年、20年)やテレビ朝日「ドクターX~外科医・大門未知子~」(2012年~)のように娯楽色が強く、考えさせない作品がほとんど。この2つのドラマを観てメッセージを感じ取った人はいないだろう。
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