“奇跡のフォント”で小学生の正答率に差 開発者が語る「UDデジタル教科書体」の驚くべき効果とは
教材を1つ1つ手作り
開発の途中で、高田さんは、目が見えづらい人に本当に読みやすいデザインになっているのか、UDフォントを名乗って良いのかと疑問を持った。そこで、慶應義塾大学経済学部教授(専攻分野:実験心理学・特別支援教育など)中野泰志氏を訪ねた。
「中野先生は、ロービジョン(弱視)研究の第一人者です。中野先生の研究室で、曇りガラスのゴーグルをつけて、ロービジョン者の視界を疑似体験しました。そのときに、文字が見えづらいというのはどういうことなのか、単に文字の大きさや形だけでなく、色や光の強さも関わってくることを実感を持って理解しました。そして、中野先生から『ロービジョンの子どもたちが勉強する姿を実際に見て、現場の先生から直接話を聞くように』と助言していただき、視覚支援学校(盲学校)に見学に連れて行ってもらいました」
2007年の社団法人日本眼科医会の調査によると、ロービジョン者は日本に約145万人いるとされている。よく見える方の眼で矯正視力が0.1を超えるが、0.5未満だとこれに定義される。
「視覚支援学校に通う子どもの視覚障害の程度はそれぞれですが、何とか文字が読める子どもは、虫眼鏡や拡大読書器を使ったりしながら読み書きを習っていました。しかし、そこに書体の問題がありました。筆を使って書く楷書をもとにした教科書体や、縦線に対して横線が細い明朝体は、線の強弱があり、ロービジョンの子どもには読みにくいのです。そのため、視覚支援学校では線の太さが均一なゴシック体や丸ゴシック体が使われているのですが、ゴシック体は手書きの字形と形状が異なるため、文字の形や筆順を覚えるときには相応しくありません」
視力が弱い子どもでも読みやすく、正しい筆順や字形を学べる書体が無かったのだ。
「視覚支援学校では、先生が1つ1つ手作業でゴシック体を修正した教材を作り、子どもたちに文字を教えていました。現在でこそ無償で配布されている文字や図形を大きくするなどして分かりやすく配慮した『拡大教科書』も、2007年当時は自費で購入する必要があり、高額のためボランティアの方が手作りをしていました。その現状を目の当たりにして、特にロービジョンの子どもたちが読みやすく、そこで教えている先生方が使いやすいフォントを作ろうと決意しました」
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