マスターズ開幕 PGAツアーとリブゴルフが対立する異常事態の中、選手たちの意外な姿

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選手同士は友好的

「優勝したら18番グリーン上でリブ・パーティーだ」などと豪語するノーマンCEOの言動はきわめて挑発的だが、オーガスタ・ナショナルにやってきた18名のリブゴルフ選手がみなノーマン同様の姿勢を見せているかと言えば決してそうではない。

 PGAツアーの昨季最終戦であるツアー選手権を終えてからリブゴルフへ移籍したオーストラリア出身のキャメロン・スミスは、「僕らは今年のオーガスタでどんなふうに迎えられるのか、オーガスタは果たしてどんな雰囲気なのか、来るまでは不安でたまらなかった」そうだ。

 だが、いざ足を踏み入れてみると、「多くの仲間が声を掛けてくれ、握手も求めてきてくれて、心の底からほっとした」とスミスは嬉しそうに語っていた。

 そしてスミスは、こんな言葉を続けた。

「僕たちリブゴルフ選手は、世間から『リアルな戦いをしていない』『リブゴルフはシリアスなゴルフではない』などと言われている。でも、実際はそうではなく、僕らもリブゴルフの試合で真剣勝負をしている。僕はそのことをマスターズで証明したい」

 スミスはリブゴルフのチーム・ロゴ入りシャツではなく、以前と同じようにマンシングのペンギンのロゴが胸に大きく付されたシャツを着てオーガスタ・ナショナルにやってきた。そのスミスと予選2日間を同組で回るのは、2021年マスターズ覇者であり日本のエースである松山英樹、そして韓国のイム・ソンジェだ。

 PGAツアーとリブゴルフが泥沼の法廷闘争に突入し、対立を深めていることは事実だが、彼ら3人はどのツアーの選手であるかにかかわらず、勝利を目指して黙々と予選の36ホールを戦うことだろう。

 予選2日間の組み合わせを見ると、両ツアーの「強硬派」同士が同組になっているペアリングは1つもない。そこには「最高のパフォーマンスを披露してほしい」というオーガスタ・ナショナルの願いが込められているのだと推測される。

 だが、たとえ両者が同組だったとしても、いざティオフしたらツアー間の確執をコースに持ち込むことはきっとない。

 呉越同舟の状態になる火曜夜のチャンピンズディナーだって、事前の予想ではPGAツアー選手とリブゴルフ選手は「口も利かないだろう」「最悪のムードになるのでは?」などと大いに心配されていた。

 だが、実際は「どちらの選手も和やかなディナーにしようとしていた。LIV(リブ)という言葉を口にする人は1人もいなかった」と1979年大会覇者のファジー・ゼラーが米メディアに明かしていた。

 史上初の異常事態の中で開催されるマスターズではあるが、どちらのツアーの選手であろうともマスターズという大会やオーガスタ・ナショナルの歴史と伝統にリスペクトを払う気持ちは共通している。そこに集う誰もが、マスターズで勝ちたい、グリーン・ジャケットを羽織りたいと願っている。

 そして勝つために求められるものは、これまでと何ら変わらない。心技体すべてが整った最強のプレーヤーが勝者に輝き、グリーン・ジャケットを羽織る。

舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。

デイリー新潮編集部

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