次は商業用不動産がヤバい…米国“中小銀行の危機”が発端となって今後何が起きるか

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 3月26日、米シリコンバレーバンク(SVB)の事業引受先が決まり、市場では金融システム不安が若干後退したが、中小規模の銀行の財務への警戒は続いたままだ。

 発端となったSVBの2022年末時点の総資産は約28兆円、リーマンショック時に破綻したワシントン・ミューチュアルに次ぐ、米銀では過去2番目の規模だった。

「SVBが保有している米国債等が目減りした」との情報がネット上で拡散し、預金が一気に流出したことが破綻の原因だったことを踏まえ、連邦準備理事会(FRB)を始め米金融当局は、規制強化に向けた取り組みを開始している。だが、事態は規制当局の動きを上回るスピードで深刻化している。

 市場の懸念が預金などの問題から運用先にまで広がりつつある。

 中でも注目を集めているのは米国の商業用不動産向けのローンだ。

 SVBに次いで3月12日に破綻したシグネチャー・バンクの総資産(約1104億ドル)の3分の1に相当する360億ドルが米国の商業用不動産ローンの融資だったことが関係している。同行は新興テクノロジー企業などが集うオフィスタワーや集合住宅に積極的に融資していたことで知られていた。

 賃貸マンションやオフィスビルなどの商業用不動産の米国の市場規模は5兆6000億ドルに達すると言われている(3月23日付フィナンシャル・タイムズ)が、戸建て住宅など住宅用不動産よりも貸付比率が高いため、金利引き上げの悪影響を受けやすい。

 FRBが昨年3月からわずか1年で政策金利を4.75ポイント引き上げたことは、米国の商業用不動産市場にとって逆風以外のなにものでもなかった。

 新型コロナのパンデミックで普及した在宅勤務も災いした。常勤勤務者が減少したため、企業はオフィスの規模を縮小し、賃貸料が高い都心から離れる動きを本格化させている。

商業用不動産ローンの借り換えがピークに

 米格付け会社ムーディーズによれば、米国内主要25都市のオフィスの空室率は一気に上昇した。サンフランシスコの場合、オフィスの空室率は2019年第4四半期の約5%から昨年第4四半期には19%にまで跳ね上がっている。

 商業用不動産ローンの分野の異変は今年2月から生じている。

 コロンビア・プロパティ-・トラストは、ニューヨークやサンフランシスコなどの都市部のビルに関連する17億ドル相当の変動金利ローンで債務不履行(デフォルト)を生じさせてしまった。その後、ブルックフィールド・アセット・マネジメントもロサンゼルスのオフィスタワー関連債務(7.5億ドル相当)をデフォルトさせている。

 モルガン・スタンレーは「市場はオフィス対象の上場不動産投資信託(REIT)の組み入れ資産が3~4割下がることを織り込んでいる」と試算している。

 米抵当銀行協会が3月15日に公表した報告書によれば、米国の銀行が保有する商業不動産ローンの融資残高(4兆4000億ドル)の8割近くを中小規模の銀行が占めている(3月29日付日本経済新聞)。そのうち16.5%に相当する7280億ドルが今年償還期限を迎え、来年も15%相当の6590億ドルが続く。今年から来年にかけて、商業用不動産ローンの借り換えがピークを迎えるのだ。

 中小規模の銀行の商業用不動産ローンへの傾倒ぶりも気になるところだ。

 今年2月時点の米国の上位25行の総資産に占める商業用不動産ローンの融資残高の割合が29%であるのに対し、米国の中小規模の銀行は67.3%と突出している(3月29日付現代ビジネスオンライン)。

「商業用不動産ローンの融資残高の5割が市場悪化が懸念される米国向けだった」ことが材料視されてドイツ銀行の株価も急落した。

 今回の騒動で米国の中小規模の銀行の貸し出し姿勢は格段に厳しくなることは間違いなく、商業用不動産ローンの借り換えの失敗が頻発するような事態になれば、次の金融危機の震源地になってしまうことだろう。

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