ワクチン、マイナカードの次は「コオロギ食」… 専門家は「まず救うべきは農家、酪農家」

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1年以上も前の画像が拡散される理由

 騒動の発端となったのは昨年11月、徳島県にある県立高校で、食用コオロギの粉末を使ったコロッケが希望者に給食として提供されたことだった。国連の持続可能な開発目標(SDGs)への理解促進が目的だったが、給食の提供から約3カ月が経った今年2月、「コオロギを食べさせたのは本当か」といった問い合わせが学校に殺到。こうして火がついた騒動は、コオロギの粉末を練り込んだパンを手掛けている「敷島製パン」や、コオロギせんべいなどを販売している「無印良品」にも飛び火。SNSでは、そうした企業の商品を買わないよう呼びかける声まで沸き起こっているのである。ちなみに、騒動のきっかけとなった徳島県の高校にコオロギの粉末を提供したのが、先に触れたベンチャー企業「グリラス」。それ故、河野大臣の1年以上も前の画像が拡散される事態となったのだ。

「通常の感覚からすれば信じられない」

 こうした経緯などに触れた上で、SNS上でコオロギ食が陰謀論と結び付いている実態を、

〈昆虫食反対 溢れる過激主張「人口削減目的」SNSに〉

 とのタイトルで報じたのは3月19日付の産経新聞。

〈コオロギ食の目的は新たな人口削減計画だ〉

〈国は6兆円の税金を使い有害な昆虫食を推進している〉

 荒唐無稽な陰謀論が歯止めなく拡散していくのは、まさにSNSの“闇”といえよう。無論、そうした陰謀論はいずれも論評に値しないが、それと「コオロギ食」の是非は別問題である。

「敷島製パン」や「無印良品」が実験的にとはいえコオロギ入りの商品を実際に販売し、公立高校で希望者にコオロギ入りコロッケが給食として出されたのは紛れもない事実。コオロギの養殖を担う会社が、地方自治体からの補助金が得られる認定農業者に選ばれた例もすでにある。今年1月にはNTT東日本が、先に触れた「グリラス」をバックアップする形でコオロギビジネスに参入することも発表された。

「まともな食糧を確保することにお金を使わないで、どうして未知の部分があるコオロギを食べるという議論になってしまうのか。通常の感覚からすれば信じられない話ですよ」

 そう憤るのは、元農水官僚で農業行政等に精通する東京大学大学院農学生命科学研究科教授の鈴木宣弘氏である。

「今、米作や酪農などの、国民の命を守るために本来必要な食糧生産が、肥料や飼料や燃料が高騰する状況の中、危機に陥っています。生産コストは上がる一方なのに、米や牛乳の価格は少ししか上げられないので赤字が膨らみ、農家や酪農家はとても経営していけない苦境にあるのです」

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