「日の丸半導体」復活を懸け「2ナノ」量産に挑む――東哲郎(ラピダス株式会社取締役会長)【佐藤優の頂上対決】
最先端露光装置を確保
佐藤 量産化の目標は、2027年ですが、今後、どんなスケジュールで進んでいきますか。
東 まず必要なのは、微細な電子回路をシリコン上に感光させる最先端の露光装置でした。それが作れるのはオランダのASML社だけで、3年待ち、4年待ちは当たり前なんです。その装置を何とか2024年末に入手できることになりました。
佐藤 EUV(極端紫外線)露光装置と呼ばれるものですね。以前、このコーナーでニコンの社長さんと対談した際、そのお話が出ました。日本はその開発から撤退したため、1社独占になっている。
東 その露光装置が届くまでに他のさまざまな装置も集め、パイロット(試作)ラインを2025年に完成させます。そして2027年には量産ラインを稼働させる。
佐藤 2027年は先のようで、そう遠くないですね。
東 すぐにやってきますよ。
佐藤 工場はどのくらいの規模になるのですか。
東 まずは数百人という感じですね。その後千人ほどになるかもしれない。敷地には3棟か4棟くらいの工場を建てることになると思います。ただあまり大きくはしたくない。私どもは常にナンバーワンの技術をビジネスにし、そのビジネスが軌道に乗れば、他に渡していけばいいと考えています。
佐藤 パイロットラインまでに2兆円、量産ラインには3兆円が必要とされています。設立時にはNTT、キオクシア、ソニー、トヨタ、デンソー、NEC、ソフトバンク、三菱UFJ銀行の8社から73億円の出資がありました。また経産省からは700億円が投じられています。今後、資金はどう調達するのですか。
東 もちろん民間からの出資も募りますが、基本的には国がメインになると考えています。アメリカでは国から先のNSTCや軍事に巨額の資金が投じられ、そこで開発された技術が民間に流れていきます。中国も同様ですし、台湾でも半導体には政府のお金がつぎ込まれている。そうした環境の中で日本が民間だけで進められるかといえば、難しい。だからここでの経営は、これまでとはちょっと違ったものになるでしょうね。
佐藤 防衛費が一気に43兆円になるくらいですから、5兆円だったらすぐ出てくると思いますよ。
東 そうあってほしいですね。
佐藤 それにしても東さんは、再び大きな仕事をされることになりましたね。日本経済新聞で連載された「私の履歴書」の終盤には「ハッピーな引退」とあり、語学の勉強を始め、ジムに通う日々をつづりつつ、かつて大学院で学んだ近代日本経済研究に取り組みたいとありました。
東 最初は設立の準備だけして、小池さんにお任せするという気持ちでいたのですよ。ただ、さまざまな人が組み合っていまの形ができていますから、そうもいかなくなりました。
佐藤 私もお話を伺っていて、東さんと一緒に仕事をするのは楽しそうだと思いました。
東 マックス・ヴェーバーが『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の中で、「ベルーフ(天職)」という言葉を使っています。こうなってみると、それを意識しないわけにはいかないですね。
佐藤 まさに天職だと思います。ぜひとも「日の丸半導体」を復活させてください。期待しています。
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