「日の丸半導体」復活を懸け「2ナノ」量産に挑む――東哲郎(ラピダス株式会社取締役会長)【佐藤優の頂上対決】

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専用半導体を速く作る

佐藤 ラピダスが作る最先端半導体はどんな用途に使われるのですか。

 例えば車の自動運転ですね。いまは高速道路で部分的な自動運転をするレベル3くらいですが、これが限られた地域での完全自動運転を行うレベル4、どこでも完全自動運転できるレベル5になっていくと、2ナノ級の半導体が入ったAIが必要になってきます。また、工場の自動化やロボットにも使えますし、医療分野での遺伝子治療、ワクチン開発・創薬でも不可欠です。それから量子コンピューターには必須です。

佐藤 非常に多くの分野で必要とされていく。

 私どもは何にでも使える汎用型半導体ではなく、それぞれの用途に応じたカスタムメイドの半導体を作っていきます。しかもそれを次々と、速いスピードで出していく。ラピダスという社名は、速いという意味の「rapid」からつけましたが、要はスピードで勝負します。

佐藤 そこが既存のファウンドリーとは違う点ですね。

 TSMCもサムスンも、あるいはインテルも、巨大な工場を持っています。そこにスケールで戦いを挑んでも勝ち目がない。私どもの戦略は、専用半導体に特化して、それを速いスピードで開発していくことです。

佐藤 これは久々に聞く、たいへんワクワクする話ですね。

 日本の半導体は1987年から1992年までは世界トップで、50%ほどのシェアがありました。これがいまや10%を切っています。

佐藤 同時期にバブル崩壊があり、失われた30年に重なります。

 1992年以降、日本の半導体産業はロジック半導体から撤退し、それまで強かったメモリに特化していきます。その間に台湾と韓国が伸びてきた。

佐藤 それがアメリカの半導体産業と結びつきました。

 半導体はもともとアメリカ生まれで、1980年代前半まではアメリカがトップでした。その後、日本の後塵を拝することになりますが、1990年代に巻き返した。その原動力になったのは、まずインテルです。彼らのマイクロプロセッサーが非常に大きなシェアを持つようになった。そしてもう一つは、設計に特化したファブレス企業に移行していったことです。これによって、アメリカが設計と開発を行い、東アジアで量産するという構造が出来上がりました。売り上げはアメリカがナンバーワンです。ただファブレスからファウンドリーに委託したものを除くと、東アジア勢の売り上げがアメリカを上回ります。

佐藤 日本の半導体産業が衰退した理由について、東さんはどのように分析されていますか。

 日本は汎用品としてのメモリを安く売ることに傾斜しましたが、その後の流れは、専用化されたロジック半導体の方にあった。iPadやiPhoneがそうじゃないですか。新しいアプリケーションをデザインして、それを技術に落とし込んでいく。そうしたアプローチが日本にはほとんどなかった。日本はアメリカで作られたものを追いかけてきただけで、真に技術的なリーダーシップのある国とは認められていなかったんだと思いますね。さらに言えば、顧客の要求を満たす技術、スピード、コスト意識が足りなかった。

佐藤 一方で、TSMCのようなファウンドリーも育ちませんでした。

 最先端のロジック半導体製造には非常に大きな投資が必要です。でも国も経営者も、そこに多くのお金をかけてリスクを取るより、輸入すればいいという意識でした。その隙に、アメリカと結びついた台湾や韓国が伸びていったわけです。また、ここでも日本で半導体製造を引っ張るアプリケーションが生まれなかったことが大きい。

佐藤 いまは、自動運転分野のアプリケーションが半導体開発をけん引している状態ですね。

 ええ、そのため各国が2ナノのロジック半導体開発に躍起になっています。今後、半導体はデジタル化する全産業を支えるようになりますから、ここで日本が失敗したら国力そのものに影響が出るでしょう。

佐藤 国力の低下は、即、国際的な地位の低下につながります。私は外交官でしたが、日頃外交は虚業だと感じていました。国が強くないと、外交では相手にされない。

 だから経産省も積極的に動いています。昨年、経産省は半導体の研究開発拠点として「技術研究組合最先端半導体技術センター(LSTC)」を設立しました。私が理事長を務めていますが、ここはアメリカの国立半導体技術センター(NSTC)を参考にした組織です。アメリカでは、半導体に関するCHIPS法が昨年成立し、半導体産業にどんどんお金を流す仕組みができました。その一環で作られたのがNSTCです。これに倣い、日本でもLSTCに資金を投じていくのです。

佐藤 LSTCとラピダスとは、どんな関係になるのですか。

 次世代半導体の量産体制をつくるため、先端設計と先端装置・素材など要素技術のオープンな研究機関となるのがLSTCで、量産製造拠点となるのがラピダスですね。

佐藤 LSTCは大学や研究機関とのハブになっていくようなイメージですか。

 そうです。国内だけでなく、アメリカのNSTCやIBM、あるいいはベルギーにあるimec(アイメック)という欧州の研究機関などとも連携していきます。

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